・・・ ソヴェト同盟のシュミット博士一行の極地探険の記録映画は誠に感銘深いものであったが、そこには歪められたロマンティシズムは少しもなかったのである。 沙漠という自然の事情と、それを生産的に開発しようとする人間の意志、土地の相貌が新しくな・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・ 極地探検の記録も人類の到達した科学と自然に対して働きかけてゆく人間の意欲との統一の姿として非常に面白い。岩波新書の「北極飛行」の素晴しさを否定するものはなかろう。バードの「孤独」も歴史的記録である。 地殻の物語は、そこに在る火山、・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・その前日には、疲れているのに無理であったが北極探険隊の遭難とその救助とモスクの歓迎との実写映画を見てまだ生きていたゴーリキイがスタンドで感動し涙をハンケチで拭いている情景を見ました。五十銭です。何というやすいことでしょう。きょう『日本経済年・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 父方の祖母はずっと田舎暮しで、そこの家の本のあるところが、実に夏休みの間の探険場所であった。この祖母は、筆の先をなめて、あぶら一しょ、と書くひとであったから、読む人のなくなった本は薄暗い三畳の戸棚の中やしめ切った客間の裏の板の間におし・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
・・・わせに可愛がられ、正しさを奨励され、綺麗な物語りの中に育って、躊躇とか不安とかいうものをまるで知らなかった彼女は、自分の前へ限りもなく拡げられる、種々雑多な色と、形と音との世界に対して、まるで勇ましい探検者のように、飽くことのない興味と熱中・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・私は、必要な場所場所を探険して、戻った。Yは、明治十七八年頃渡来したまま帰るのを忘れた宣教師の応接間のような部屋で、至極安定を欠いた表情をして待っている。「――支那的ね」「この位の規模でないと遣って行けないんだな、長崎というところは・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
岩波新書のなかに、米川正夫氏の翻訳でヴォドピヤーノフというひとの書いた「北極飛行」という本がある。 これは純粋な文学書ではなくて、ソ連の北極探検飛行の記録である。著者も作家ではない操縦士である。彼の指導によって北極の歴・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・これだけの事を考えて、小川君はとうとう探検に出掛ける決心をしたそうだ。無論便所に行くにだって、毛皮の大外套を着たままで行く。まくった尻を卸してしまえば、寒くはない。丁度便所の坑の傍に、実をむしり残した向日葵の茎を二三本縛り寄せたのを、一本の・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・どこかあの辺で、北極探険者アンドレエの骨が曝されている。あそこで地極の夜が人を威している。あそこで大きな白熊がうろつき、ピングィン鳥が尻を据えて坐り、光って漂い歩く氷の宮殿のあたりに、昔話にありそうな海象が群がっている。あそこにまた昔話の磁・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・ が、この奴隷商人の宣伝が嘘であることを立証したのは十九世紀以来の探検家である。なるほどアフリカの沿岸には、奴隷商人が荒し回った限り、ニグロ固有の文化はなんにも残っていない。そこにあるのはヨーロッパの安物商品、ズボンをはいたみじめなニグ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫