・・・ 文学の本質というものをひとくちに表現するのは難しいけれども、つまりは人間生活の諸相の要求の探求であって、日々の我々の現実に対して一人の作家が、人間及び芸術家としてかかわりあってゆく、そのいきさつが、その評価が、作品の世界の現実として創・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・日本のいく久しい封建社会の歴史にもたらされて、日本の知性は、強靭な知的探求力とその理づめな権威力をもつより、いつも感性的である。その日本の感性的な知性が西欧のルネッサンスおよびそれ以後の人間開花の美に驚異したのが「白樺」の基調であった。・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・しかもこの現象は、探求されている日本文学史上のあらゆる近代性確立の問題の根蔕において繋がっているのであって、買うのはどういう人々だろう。荷風、潤一郎は昨今では闇屋の作家である。と云われている言葉がある。新聞には三千五百円の句集ということが話・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・現在でのように、どっちかというといつも男対女のいきさつの形で、女の側からの女の幸福の探求がもち出されて来るような社会の時代的な性格に変化が生じて、男も人間の幸福ということを考えれば、女の幸福がその不可欠の条件であることを常識として身につけて・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・しかし、形式の探求、古典の研究、パプツチキとの理論闘争などの活溌さに比べて、直接大衆へよびかける作品そのものの生産は、目覚ましく行っているとはいえなかった。 日に日に育ってゆく、プロレタリア・農民の現実生活からはなれたパプツチキの作品が・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ こんにち、もっとも真率に探求的な態度で語られなければならないのは、理性の構成と機能、の課題である創作方法の問題ではないだろうか。しかもそれについて語りかたは、歴史の現実とともに急激に推進されて、わたしたちは、創作方法についてメリー・キ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ したがって、出版恐慌を理由として、これらの戦後派の先輩たちがジャーナリズムの上にうけた不利――すなわち、社会的文学的発言の範囲の縮小の本質は、とりもなおさず、理性に立つ現実探求の精神の主張、国の内外のファシズムと戦争挑発に対する抗議と・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・作家は、現実に向って飽くまで探求的であり、生のままの感受性をもち、自身の人間的心情に立ってひたむきでなければならないと思う。その意味では、最も大乗的な素直さが求められる。私たちが今日を生き、そしてその中に、人間としての自己の生涯を与えつくす・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・教え込まれた茸の価値はいわば彼に探求の目標を与えたのであった。すなわち彼を茸狩りに発足せしめたのであった。それから先の茸との交渉は厳密に彼自身の体験である。茸狩りを始めた子供にとっては、彼の目ざす茸がどれほどの使用価値や交換価値を持つかは、・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・わたくしはそのころの京都大学の空気を知らないから、このきちょうめんさが外からの要求なのか、あるいは先生自身の内から出たのか、それを判断することはできないが、晩年まで衰えることのなかった先生の旺盛な探求心のことを思うと、あのとき先生が大学の方・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫