・・・て、以下憤怒怨恨誹謗嫉妬等、あらん限りの悪事を書並べて婦人固有の敗徳としたるは、其婦人が仮令い之を外面に顕わさゞるも、心中深き処に何か不平を含み、時として之を言行に洩らすことありとて、其心事微妙の辺を推察したるものならんか。若しも然らんには・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・右は事実か、あるいは好事家の作りたる奇話か、これを知るべからずといえども、林家に文権の帰したる事情は、推察するに足るべし。 今日は時勢もちがい、かかる奇話あるべきようもなしといえども、もしも幸にして学事会の設立もあらば、その権力は昔日の・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・仮令い或は其一方が真実打解けて親まんとするも、先方の心に何か含む所あるか、又は含む所あらんと推察すれば、何分にも近づき難きが故に、俗に言う触らぬ神に祟なしの趣意に従い、一通りの会釈挨拶を奇麗にして、思う所の真面目をば胸の中に蔵め置くより外に・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ところが彼らが研究会やなにかでイデオロギー的に獲得した輝かしい未来の社会、両性関係の見とり図と、現実の日常生活との間には、少なからぬギャップがあったであろうことは、たやすく推察することができる。歴史的にも若々しかった彼らのある者は、性急にそ・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・二度目の良人に縁あって妻となって、二人の美しい娘たちさえ設けた今、三度そこを去って行手に何が待っているかということは、彼女には十分推察のつくことであった。二人の娘の女としての行末もやはり自分のように他人の意志によってあちらへ動かされ、こちら・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・キリスト教の文化から背を向ければ、芸術的気質のない葉子には、擡頭しようとする日本の資本主義の社会、その社会のモラル、いわゆる腕が利く、利かぬの目安で人物を評価する俗的見解の道しか見えなかったことは推察される。 作者は一九一七年に再びこの・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ そこで木村はその挨拶をする人は、どんな心持でいるだろうかと推察して見る。先ず小説なぞを書くものは変人だとは確かに思っている。変人と思うと同時に、気の毒な人だと感じて、protg にしてくれるという風である。それが挨拶をする表情に見えて・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・どうも世間の教育を受けた人の多数は、こんな物ではないかと推察せられる。無論この多数の外に立って、現今の頽勢を挽回しようとしている人はある。そう云う人は、倅の謂う、単に神を信仰しろ、福音を信仰しろと云う類である。又それに雷同している人はある。・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・強いて推察して見れば、この百物語の催しなんぞも、主人は馬鹿げた事だと云うことを飽くまで知り抜いていて、そこへ寄って来る客の、或は酒食を貪る念に駆られて来たり、或はまた迷信の霧に理性を鎖されていて、こわい物見たさの穉い好奇心に動かされて来たり・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・のう」 だが身贔負で、なお幾分か、内心の内心には「まさか殺されはせまい」の推察が虫の息で活きている。それだのに涙腺は無理に門を開けさせられて熱い水の堰をかよわせた。 このままでややしばらくの間忍藻は全く無言に支配されていたが、その内・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫