・・・といそいで揉み消した。「さあもう一っ稼ぎだ」 また風呂敷包を両手に下げた引かけ帯の見窄しい母親と並んで、一太は一層商売を心得た風に歩き出す。彼は活溌に左右に眼を配って、若い細君でも出て来そうな家を物色した。一太も母同様、玉子を沢・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・ 吸いかけた煙草を床の上へすて、靴の先で揉み消し、縦に割れた一尺指しをテーブルの上からとり、それで机にかけていた私の肱を小突いた。「大体貴様は生意気だ。こっちが紳士的に調べてやっても一向云わんそうだから、今日は一つ腕にかけて云わして・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ フット寝しなにそう思った千世子は若し彼の人の命の燃木が自分の手の届く処にあったら先(ぐ揉み消してしまいたく思われた。 もう十年ほど前に亡くなった大伯父の一人っ子に男の子がある、十八で信二って云う。 大伯父・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
出典:青空文庫