・・・それらの点で作者の情熱ははっきり感じられるのであるが、果して作者は葉子の苦痛に満ちた激情的転々の根源を突いて、それを描破し得ているということが出来るであろうか。 私の感想では、作者は葉子と共に、あの面、この面、と転々しつつ、遂に葉子の不・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ならマルクスがバルザックの作品を評したなかで、バルザックが政治的には王党派であったにもかかわらず彼の文学におけるリアリズムの力は、どんな経済学の本よりも当時のフランスの社会相とプロレタリアートの未来を描破しているという意味の言葉を云っている・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・作者の社会人としての感覚、歴史に対する積極的な参与を自覚しない客観主義は、いわば十九世紀の自然主義のぬりかえにすぎず、社会を客観的に見てあらゆる社会階層の現実とその発展を描破しようとする民主主義文学でないことは明瞭です。 石川達三、林房・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・トルストイが、あのように力をこめて、無実の罪を主張して泣き叫ぶカチューシャにシベリア流刑を宣告する裁判官の、無情な非人間さを描破したのは、なぜだったろう。法律は、権力者によって自分に都合のいいように使われるが、真実の罪は、罪ありとしてさばか・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・作家は、その場合、どんな力で、我血の流れる負傷のあとを調べ、そのように人情以上の力がわが人情を破壊したいきさつを摂取し、その経験によってなお強く人生を愛しつつ社会の現実を描破し得るであろう。 人間生活の内奥に於て、感情と情熱とは同じもの・・・ 宮本百合子 「パァル・バックの作風その他」
・・・バルザックは、シボの神さんがポンスの財産をせしめようという慾に目醒めた、その途端に、彼女の平凡な市民的親切心が全く質的に一変した有様を、読者の日常心を刺すような鋭さで描破している。私共は、そこに可怖い程なリアリストとして心理のモメントを捕え・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 彼が、関係を描破した作家であるということには、未来への示唆があり、この作家が文学上のモニュメントとなってしまわず常に生きかえる力をもっていることの証左である。 何故なら、二十世紀後半の文学は、益々人間の集団と集団の関係を真実のテー・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・「ヤング案のドイツと五ケ年計画のロシアと恐慌日本とソヴェト支那と朝鮮等を背景に、戦後世界資本主義の第三期、大恐慌、大建設、対立激化、ファッショ化、革命力の昂揚などを描破しようと企てた。」 ――新世界の黎明として今日の世界を描こうと予告さ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・ 人道主義的なセンチメンタリズムを蹴たおして、仮借なく現実を踏み越えて生きようとする気組も、作品として十分の落付いた肉づけ、客観的な描破力を伴わないと、結果としては案外に単純な神経性ヒロイズムやスリルの追求に堕す危険をもつのである。・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・今日及び明日の作家には、文学の大道から、今日おびただしい犠牲を通じて行われている心を痛ましめる衝突と一刻も早く望まれる最善の解決とを、歴史性の動向につき入って観察し描破しようとする熱意、力量の蓄積、鍛練が希望されている筈である。 ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫