・・・支那の黄河や揚子江に似た、銀河の浪音ではなかったのです。しかし私は歌の事より、文字の事を話さなければなりません。人麻呂はあの歌を記すために、支那の文字を使いました。が、それは意味のためより、発音のための文字だったのです。舟と云う文字がはいっ・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・見た事はないが揚子江であろうと思うような処であった。その広い川に小舟が一艘浮いて居る。勿論月夜の景で、波は月に映じてきらきらとして居る。昼のように明るい。それで遠くに居る小舟まで見えるので、さてその小舟が段々遠ざかって終に見えなくなったとい・・・ 正岡子規 「句合の月」
・・・それから五月か六月には、南の方では、大抵支那の揚子江の野原で大きなサイクルホールがあるんだよ。その時丁度北のタスカロラ海床の上では、別に大きな逆サイクルホールがある。両方だんだんぶっつかるとそこが梅雨になるんだ。日本が丁度それにあたるんだか・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
パール・バック夫人が主として中国人の生活を描いているのに対して、アリス・ホバード夫人は「揚子江」で、中国における白人の生活と闘争とを描いている。そして、この二人の作家は、永年に亙る中国での生活経験と観察との結果、それぞれに・・・ 宮本百合子 「「揚子江」」
出典:青空文庫