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・・・烏羽揚羽と云うのでしょう。黒い翅の上に気味悪く、青い光沢がかかった蝶なのです。勿論その時は格別気にもしないで、二羽とも高い夕日の空へ、揉み上げられるようになって見えなくなるのを、ちらりと頭の上に仰ぎながら、折よく通りかかった上野行の電車へ飛・・・
芥川竜之介
「妖婆」
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・・・ 耳もとで囁き、大きい黒揚羽の蝶が、ひたと、高須の全身をおおい隠し、そのまま、すっと入口からさらっていって、廊下の隅まで、ものも言わず、とっとと押しかえして、「まあ。ごめんなさい。」ほっそりした姿の女である。眼が大きく鼻筋の長い淋し・・・
太宰治
「火の鳥」