・・・と光代は進み寄って揺り動かす。それなら謝罪ったか。と細く目を開けば、私は謝罪るわけはありませぬ。父様こそお謝罪りなさるがいいわ。 なぜなぜと仰向けに寝返りして善平はなお笑顔を洩らす。それだっても、さんざん私をいやがらせておいて、と光代は・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・これから進んで実際の家を振動台の上で揺り動かす大規模の実験を企てその準備にかかろうという際に病のために倒れたのである。 末広君の研究の行き方や筋道を見ると色々な優れた特徴がある。一口に云うと昔の一般の工学者に較べて、すべてが物理学者風で・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・激しい生活の諸現象は、本能的に若い精神を揺り動かすのだけれども、何を捉えて、どう考えを展開させて行ってよいのか判らない状態におかれている。ここに、日本の文化の深奥において、思想性はいまだ確立されていなかった過去の悲劇的な投影があるのである。・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・彼らは胸に沁み入る静かな愛の代わりに、感覚を揺り動かす騒々しい情調を欲した。こうして私はただひとり取り残された。私の愛は心の奥に秘められて、ついに出ることができなかった。 この隙に第二の理由が匐い込んだ。私の内の Aesthet はそこ・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫