・・・それのみか、某事件の摘発、攻撃の筆がたたって、新聞条令違反となり、発売禁止はもとより、百円の罰金をくらった。続いて、某銀行内部の中傷記事が原因して罰金三十円、この後もそんなことが屡あって、結局お前は元も子もなくしてしまい無論廃刊した。 ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・が、あれだけ農民、農村を知りながら、かくまで農民が非人間的な生活に突き落され、さまざまな悲劇喜劇が展開する、そのよってくる真の根拠がどこにあるかを突きつめて究明し、摘発することが出来ないのは、反都市文学のらち内から少しも出なかった農民文学会・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・婆さん教授に依って詩の舌を根こそぎむしり取られました私も、まだ女性を訴える舌だけは、この新憲法の男女同権、言論の自由に依って許されている筈でございますから、私のこれからの余生は挙げて、この女性の暴力の摘発にささげるつもりでございます。・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・それよりも起こるべくしてわずかに起こらないでいるあらゆる過失や危険の芽を摘発し注意を与える事がいっそう有益である。たとえば電車や公共建築物設備の不完全あるいは破損のために将来当然に起こるべきけがや病害を、とかく不手回りがちな当局者に先だって・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・我輩は右の話を聞て余処の事とは思わず、新日本の一大汚点を摘発せられて慚愧恰も市朝に鞭たるゝが如し。条約改正、内地雑居も僅に数箇月の内に在り、尚お此まゝにして国の体面を維持せんとするか、其厚顔唯驚く可きのみ。抑も東洋西洋等しく人間世界なるに、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ その趣は、老成人が少年に向い、直接にその遊冶放蕩を責め、かえって少年のために己が昔年の品行を摘発枚挙せられ、白頭汗を流して赤面するものに異ならず。直接の譴責は各自個々の間にてもなおかつ効を見ること少なし。いわんや天下億万の後進生に向っ・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・に内行を潔清に維持して俯仰慚ずる所なからんとするは、気力乏しき人にとりて随分一難事とも称すべきものなるが故に、西洋の男女独り木石にあらずまた独り強者にあらず、俗にいう穴探しの筆法を以てその社会の陰処を摘発するにおいては、千百の醜行醜聞、枚挙・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・常識では、災難と思えるところに、摘発の専門家の手にかかると、法律上犯罪となる条件が見出され得るということは、一般人の信頼を、安らかさに置くよりも、気味わるく思わせる。 もとより悪質な諸犯罪、殺人、お家騒動のからくりに対しては、十分専門家・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・只今開催中の臨時議会は、戦争犯罪人の摘発に脅かされて、新聞はおのずから諷刺的に彼等の恐慌を語っている。社会生活の破壊がもたらす様々な辛苦を、家庭で婦人は自身の皸のきれた手によって知っている。婦人の参政権どころか、「食べることの方が忙しい」と・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・技師が生産組織の内部で、反革命的策動をやる例は、一九二八年、国家保安部によって摘発されたドン炭坑区に於けるドイツ資本家と結托した大規模な反革命の陰謀を見てもわかる。ソヴェトの党・労働組合がプロレタリアートの中から優良な技術家を養成しようとし・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫