・・・人形使 犬になって――凝と夫人を抱き起し、その腰の下へ四這いに入る背に、夫人おのずから腰を掛けつ、なお倒れんとする手を、画家たすけ支う。馬になってお供をするだよ。画家 奥さん、――何事も御随意に。夫人 貴方、・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・それがそこに何も支うるものがなかったならば怪我人は即死した筈である。棍棒は繁茂した桑の枝を伝いて其根株に止った。更に第三の搏撃が加えられた。そうして赤犬を撲殺した其棍棒は折れた。悪戯の犠牲になった怪我人は絶息したまま仲間の為めに其の家へ運ば・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・かく観ぜんと思い詰めたる今頃を、わが乗れる足台は覆えされて、踵を支うるに一塵だになし。引き付けられたる鉄と磁石の、自然に引き付けられたれば咎も恐れず、世を憚りの関一重あなたへ越せば、生涯の落ち付はあるべしと念じたるに、引き寄せたる磁石は火打・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・かつ大志を抱くものは往々貧家の子に多きものなれども、衣食にも差支うるほどにて、とても受教の金を払うべき方便なく、ついに空く志を挫く者多し。その失、二なり。一、私塾の教師は、教授をもって金を得ざれば、別に生計の道を求めざるをえず。生計に時・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・ また口実に云く、戸外の用も内実は好む所にあらざれども、この用に従事せざれば銭を得ず、銭なければ家を支うるを得ず、子供を棄てて学校に入れたるは止むを得ざるの事情なりと。この言はやや人情に近きが如くなれども、元来その家とはいかなる家か。こ・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・首をたれて右の手でそれを支う。静かに幕 第二幕 第二場 場処 イタリー、サレルノの一農家景 舞台の略中央に、貧しいながらも白い清潔な帳を垂れた寝台が置いてある。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・いやしき恋にうき身やつさば、姫ごぜの恥ともならめど、このならわしの外にいでんとするを誰か支うべき。『カトリック』教の国には尼になる人ありといえど、ここ新教のザックセンにてはそれもえならず。そよや、かのロオマ教の寺にひとしく、礼知りてなさけ知・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫