・・・「費用は事務費で仕払ったのか……俺しのほうの支払いになっているのか」「事務費のほうに計上しましたが……」「矢部に断わったか」 監督は別に断わりはしなかった旨を答えた。父はそれには別に何も言わなかったが、黙ったまま鋭く眼を光ら・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ ロイドめがねを真円に、運転手は生真面目で、「多分の料金をお支払いの上、お客様がですな、一人で買切っておいでになりましても、途中、その同乗を求むるものをたって謝絶いたしますと、独占的ブルジョアの横暴ででもありますかのように、階級意識・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ と、おかね婆さんは大分怪しくなって来た口調でぼそぼそぼやくし、宿や医者への支払いは嵩む一方だし、それに、婆さんに寝込まれているのは「医者の不養生」以上に世間にも恰好がわるい話だと、おれは随分くさってしまったが、お前ときてはおれ以上、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ 店仕舞いメチャクチャ大投売りの二日間の売上げ百円余りと、権利を売った金百二十円と、合わせて二百二十円余りの金で問屋の払いやあちこちの支払いを済ませると、しかし十円も残らなかった。 二階借りするにも前払いでは困ると、いろいろ探してい・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・私が支払い口の窓のところで受け取った紙幣は、風呂敷包みにして、次郎と二人でそれを分けて提げた。「こうして見ると、ずいぶん重いね。」 待たせて置いた自動車に移ってから、次郎はそれを妹に言った。「どれ。」 と、妹も手を出して見せ・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・けれども、そんな時たまの支払いだけでは、とても足りるものではなく、もう私どもの大損で、なんでも小金井に先生の家があって、そこにはちゃんとした奥さんもいらっしゃるという事を聞いていましたので、いちどそちらへお勘定の相談にあがろうと思って、それ・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ かれは、それを窓口に差出し、また私と並んでベンチに腰かけて、しばらくすると、別の窓口から現金支払い係りの局員が、「竹内トキさん。」 と呼ぶ。「あい。」 と爺さんは平気で答えて、その窓口へ行く。「竹内トキさん。四拾円・・・ 太宰治 「親という二字」
・・・毎日、毎日、訪問客たちの接待に朝から晩までいそがしく、中には泊り込みの客もあって、遊び歩くひまもなかったし、また、たまにお客の来ない日があっても、そんなときには、家の大掃除をはじめたり、酒屋や米屋へ支払いの残りについて弁明してまわったりして・・・ 太宰治 「花燭」
・・・言いにくい事から、まず申し上げますが、あの温泉宿の支払いをお助け下さって、ありがとう存じます。たしか二十円お借りしたと覚えて居りますが、小為替にて同封して置きましたから、よろしくお願い致します。私も「へちまの花」の印税がはいったばかりのとこ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・という返事で、ついに一度も、私が支払い得なかったという醜態ぶりであった。「新宿の秋田、ご存じでしょう! あそこでね、今夜、さいごのサーヴィスがあるそうです。まいりましょう。」 その前夜、東京に夜間の焼夷弾の大空襲があって、丸山君は、・・・ 太宰治 「酒の追憶」
出典:青空文庫