・・・なお、売れても売れなくても、必ず四十円の固定給は支給する云々の条件に、申し分がなく、郵便屋がこぼすくらい照会の封書や葉書が来た。 早速丹造は返事を出して曰く、――御申込みにより、貴殿を川那子商会支店長に任命する。ついては身元保証金として・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ チベリウス・グラックスは、国のために任に赴いた時、羅馬最高位の人であったのに、一日に唯の五文半しか支給せられなかった。」 しかし、そのような諸先輩のいろいろまちまちの論は、いずれもこの「青ヶ島大概記」に於てだけは、当るといえど・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・ 勝治の小使銭は一月三十円、節子は十五円、それは毎月きまって母から支給せられる額である。勝治には、足りるわけがない。一日で無くなる事もある。何に使うのか、それは後でだんだんわかって来るのであるが、勝治は、はじめは、「わかってるじゃねえか・・・ 太宰治 「花火」
・・・ それからまた○○などで全国の科学研究機関にサーキュラーを発して、数々のかなり漠然たる研究題目とそれに対して支給すべき零細の金額とを列挙してそれらの問題の研究引受人を募ることがあるようであるが、あれなどもやはりこのイブラヒム老人の入れ歯・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・その時に夏目先生の英語をしくじったというのが自分の親類つづきの男で、それが家が貧しくて人から学資の支給を受けていたので、もしや落第するとそれきりその支給を断たれる恐れがあったのである。 初めて尋ねた先生の家は白川の河畔で、藤崎神社の近く・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・СССРでは昔からどんな田舎の駅でも列車の着く時間には熱湯を仕度してそれを無料で旅人に支給する習慣だ。だからしばしば見るだろう。汽車が止るとニッケル・やかんやブリキ・やかんや時には湯呑一つ持ってプラットフォームを何処へか駈けてゆく多勢の男を・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 一九二七年 九九四二千人 一九三三年 一七〇〇〇千人 殆ど倍の千七百万という児童が、ソヴェト同盟では無月謝で、学用品、弁当まで国家の支給で勉強することが出来るのだ! それには教師が殖えなければならぬ。 現・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・出征兵士は欠勤とし軍隊の日給をさし引いた賃銀を支給すること、各駅にオゾン発生器をおくこと、宿直手当、便所設置その他を獲得し、婦人従業員の有給生理休暇要求は拒絶されて女子の賜暇を男子と同じによこせ、事務服の夏二枚冬一枚の支給、その他を貫徹した・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・入営まで職についていれば除隊後新たに就職するまで失業手当を支給される。親が例えば選挙権をもたないでも息子が赤衛兵ならば集団農場に加入を許される。 手風琴を鳴らして赤衛兵が腰かけている窓の下の掘割を、ボートが一艘漕いで来た。ボートの中には・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・重い労働には六時間で牛乳が支給される。後でわかったことであるがドン・バスの炭坑でも、条件のわるい坑内労働はこの六時間交代、牛乳支給が行われているのであった。労働者生活改善費に今年は五十万留を予算してあるとその技師は説明した。「資本主義時・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
出典:青空文庫