・・・ 真実というものが、いかに相手を真面目にさせるか、熱情というものが、いかに相手の心を打つか、こうした時に分るものです、それであるから、語る人の態度は、自から聴く人の態度を、改めることになるのであります。「面白い話や、おかしい話や、ま・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・知る人もすくない遠い異郷の旅なぞをしてみ、帰国後は子供のそばに暮らしてみ、次第に子供の世界に親しむようになってみると、以前に足手まといのように思ったその自分の考え方を改めるようになった。世はさびしく、時は難い。明日は、明日はと待ち暮らしてみ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・これを治療するにはやはり余裕のある人を模倣する事によって習性を改める外はない」と論じている。これを読んでなるほどと感心した。 しかしまだどうもこの説には充分に腑に落ちないところがある。もし東京にあの風が吹かなかったら、もし東京の街の泥と・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・もっとも当人がすでに人間であって相応に物質的嗜欲のあるのは無論だから多少世間と折合って歩調を改める事がないでもないが、まあ大体から云うと自我中心で、極く卑近の意味の道徳から云えばこれほどわがままのものはない、これほど道楽なものはないくらいで・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・そこでやむをえず全部を書き改める事にして、さて速記を前へ置いてやり出して見ると、至る処に布衍の必要を生じて、ついには原稿の約二倍くらい長いものにしてしまった。 題目の性質としては一気に読み下さないと、思索の縁を時々に切断せられて、理路の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・は書き改められる、材料が惜しいと宇野氏が評しているが、書き改めるということの核心は、作者が現実と自分との角度をしゃんと明瞭にして姿勢を立て直し、改めてかかる、ということと同義なのである。 この作品評で、宇野氏が生態の描写ということをよく・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・そこらを考えてみると、忠利が自分の癖を改めたく思いながら改めることの出来なかったのも怪しむに足りない。 とにかく弥一右衛門は何度願っても殉死の許しを得ないでいるうちに、忠利は亡くなった。亡くなる少し前に、「弥一右衛門奴はお願いと申すこと・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫