・・・その恐れ入ってる先生が真面目に幽霊談をするとなると、余もこの問題に対する態度を義理にも改めたくなる。実を云うと幽霊と雲助は維新以来永久廃業した者とのみ信じていたのである。しかるに先刻から津田君の容子を見ると、何だかこの幽霊なる者が余の知らぬ・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・其不平の意を明にして破約者の非を改めしむるは婦人の権利なり。漫に嫉妬なる文字を濫用して巧に之を説き、又しても例の婦人の嫉妬など唱えて以て世間を瞞着せんとするも、人生の権利は到底無視す可らざるものなり。 然るに男尊女卑の習慣は其由来久しく・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・見て、その原因を王政維新の一挙に帰し、政府をもって人事百般の源となし、その心事の目的を政府の一方に定めて、他をかえりみざる者多しといえども、余輩の考には政府もまた、ただ人事の一部分にして、その旧政府を改めて新政府をつくりたるも、原因のあると・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・すなわち攫者が面と小手(撃剣を着けて直球を攫み投者が正投を学びて今まで九球なりし者を四球に改めたるがごときこれなり。次にその遊技法につきて多少説明する所あるべし。○ベースボールに要するもの はおよそ千坪ばかりの平坦なる地面(芝生なら・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・それから又どっかりと椅子へかけようとしましたが何か考えついたらしく、いきなりキーキーいびきをかいているあまがえるの方へ進んで行って、かたっぱしからみんなの財布を引っぱり出して中を改めました。どの財布もみんな三銭より下でした。ただ一つ、いかに・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ 洋傘直しはそれを受け取って開いて刃をよく改めます。「これはどこでお買いになりました。」「貰ったんですよ。」「研ぎますか。」「ええ。」「それじゃ研いでおきましょう。」「すぐ来ますからね、じきに三時のやすみです。」・・・ 宮沢賢治 「チュウリップの幻術」
・・・濫な作者の道楽気は反省されなければならないと共に、群集の一人でも、此からの舞台では、仕出し根性を改めなければならないのではあるまいか。 此時ばかりでなく、「恋の信玄」で手負いの侍女が、死にかかりながら、主君の最期を告げに来るのに、傍にい・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ 山岸では二三年前に、東京の法律学校を出た息子が万事を締って、その批判的な頭で生活法を今までとは善い方にも悪い方にも改めた。 山岸の御隠居はんと呼ばれて居る政吉は、二言目には、「私はもう隠居なんやから、何も知らいてもらえんの・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・光貞はのち名を光尚と改めた。二男鶴千代は小さいときから立田山の泰勝寺にやってある。京都妙心寺出身の大淵和尚の弟子になって宗玄といっている。三男松之助は細川家に旧縁のある長岡氏に養われている。四男勝千代は家臣南条大膳の養子になっている。女子は・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・某へは三斎公御名忠興の興の字を賜わり、沖津を興津と相改め候様御沙汰有之候。 これより二年目、寛永三年九月六日主上二条の御城へ行幸遊ばされ妙解院殿へかの名香を御所望有之すなわちこれを献ぜらるる、主上叡感有りて「たぐひありと誰かはいはむ末に・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
出典:青空文庫