・・・そんなことを考えていた時にちょうど改造社の『日本文学講座』に何か書けという依頼を受けたので、もし上掲の表題でも宜しければ何か書いてみようということになった。云わば背水陣的な気持で引受けた次第である。そんな訳であるから、この一篇は畢竟思い付く・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・のみならずそれまでは雑誌の口絵にでもありそうな感じのあった絵が、この改造のためにいくらか落ちついた古典的といったような趣を生じた。そして色の対照の効果で顔の色の赤みが強められるのであった。しかしまた同時に着物がやはり赤っぽく見えだして気に入・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・しかしこれら市中の溝渠は大かた大正十二年癸亥の震災前後、街衢の改造されるにつれて、あるいは埋められ、あるいは暗渠となって地中に隠され、旧観を存するものは殆どないようになった。 そのころ、わたくしはわが日誌にむかしあって後に埋められた市中・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・今日ではこのアアチの下をば無用の空地にして置くだけの余裕がなくって、戸々勝手にこれを改造しあるいは破壊してしまった。しかし当初この煉瓦造を経営した建築者の理想は家並みの高さを一致させた上に、家ごとの軒の半円形と円柱との列によって、丁度リボリ・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・人間の歴史は今日の不満足を次日物足りるように改造し次日の不平をまたその翌日柔らげて、今日までつづいて来たのだから、一方から云えばまさしくこれ理想発現の経路に過ぎんのであります。いやしくも理想を排斥しては自己の生活を否定するのと同様の矛盾に陥・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・最後に意を働かす人は、物の関係を改造する人で俗にこれを軍人とか、政治家とか、豆腐屋とか、大工とか号しております。 かように意識の内容が分化して来ると、内容の連続も多種多様になるから、前に申した理想、すなわちいかなる意識の連続をもって自己・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 大河内氏の著書は、鶏小舎を改造せる作業場の中で、ズボンをつけ、作業帽をかぶりナット製作をしている村の娘たち、あるいは村の散髪屋を改造せる作業場で、シボレー自動車用ピストンリングの加工をしている縞のはんてんに腰巻姿の少女から中年の女の姿・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・一九三〇年の暮から一九三二年いっぱいに書かれたソヴェト紹介の文章は、『女人芸術』『戦旗』『ナップ』をはじめとして『毎日新聞』『改造』そのほか記憶することが困難なほどの数にのぼった。 その数多いソヴェトに関する執筆のうち、単行本としてまと・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・あるいは社会の改造に活路を認めるか。――それらはおのおの一つの道である。がこの場合、美の陶酔に自己の安んずる場所を認めるとすれば、それは右の諸種の道と異なった一つの特殊な道である。ここでは美への関心が善への関心の上に置かれる。そうしてあの苦・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・をくっつけただけであって、埴輪本来の円筒形を人体に改造しようとしたのではない。このことは四肢の無雑作な取り扱い方によく現われている。両足は無視されるのが通例であり、両腕も、この人物が何かを持っているとか、あるいは踊っているのだとか、というこ・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫