・・・是等都下の新聞紙及び雑誌類の僕に対する攻撃の文によって、僕はいい年をしながらカッフェーに出入し給仕女に戯れて得々としているという事にされてしまった。そして相手の給仕女はお民であるという事になった。 生田さんは新聞紙が僕を筆誅する事日を追・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・私は必要上、ごく粗末なところを、はなはだ短い時間内に御話するのであるから、無論豪い哲学者などが聞いておられたら、不完全だと云って攻撃せられるだろうと思います。しかしこの短い時間内に、こんな大袈裟な問題を片づけるのだから、無論完全な事を云うは・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・それを攻撃する訳じゃありませんが、しかしそれだけでは人格問題じゃない。人格問題じゃないというのは――随分悪い事をして、人の金をただ取るとか、法律に触れるような事をしないまでも非道いずるい事をしたり、種々雑多な事をやって、立派な家に這入って、・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・婚するの原因となり、親子の不和となり、兄弟の喧嘩となり、これを要するに日本国には未だ真実の家族なきものというも可なり、家族あらざれば国もまたあるべからず、日本は未だ国を成さざるものなりなど、口を極めて攻撃せらるるときは、我輩も心の内には外国・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・衆人の攻撃も慮るところにあらず、美は簡単なりという古来の標準も棄てて顧みず、卓然として複雑的美を成したる蕪村の功は没すべからず。 芭蕉の句はことごとく簡単なり。強いてその複雑なるものを求めんか、鶯や柳のうしろ藪の前つゝじ活け・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・このわれわれのやった大しばいについて不愉快なお方はどうか祭司次長にその攻撃の矢を向けて下さい。私はごく気の弱い一信者ですから。」 ヒルガードは一礼して脱兎のように壇を下りただ一つあいた席にぴたっと座ってしまいました。「やられたな、す・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 諷刺は攻撃的だ。率直だ。動的で、生活的だ。 活溌な闘争にしたがう世界のプロレタリアートは、だから一方にはブルジョア社会への攻撃の武器として、他方には自己批判の武器として、諷刺をアレゴリーとはくらべものにならない効果で利用しているわ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
東京化学製造所は盛に新聞で攻撃せられながら、兎に角一廉の大工場になった。 攻撃は職工の賃銀問題である。賃銀は上げて遣れば好い。しかしどこまでも上げて遣るというわけには行かない。そんならその度合はどうして極まるか。職工の・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・もしこれをしも背理なものとして感覚派なるものに向って攻撃するものがありとすれば、それは前世紀の遺物として珍重するべきかの「風流」なるものと等しく物さびたある批評家達の頭であろう。風流なるものは畢竟ある時代相から流れ出た時代感覚とその時代の生・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・そこでただ新聞から得た知識で政治家を攻撃したり、勅語を捧読したりするだけのことになる。宣伝としては効果はあるまい。 そこで警衛、宣伝ともに有効な効果を挙げ得ぬことになる。それをやって見たところで、ただ父が主観的に満足するだけのことに過ぎ・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫