・・・蘭陵の酒を買わせるやら、桂州の竜眼肉をとりよせるやら、日に四度色の変る牡丹を庭に植えさせるやら、白孔雀を何羽も放し飼いにするやら、玉を集めるやら、錦を縫わせるやら、香木の車を造らせるやら、象牙の椅子を誂えるやら、その贅沢を一々書いていては、・・・ 芥川竜之介 「杜子春」
・・・飼い主でさえ、噛みつかれぬとは保証できがたい猛獣を、その猛獣を、放し飼いにして、往来をうろうろ徘徊させておくとは、どんなものであろうか。昨年の晩秋、私の友人が、ついにこれの被害を受けた。いたましい犠牲者である。友人の話によると、友人は何もせ・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・たいてい、二年、三年放し飼い。みんな、出ること許り考えている。一、外部との通信、全部没収。一、見舞い絶対に謝絶、若しくは時間定めて看守立ち合い。一、その他、たくさんある。思い出し次第、書きつづける。忘れねばこそ、思い出さずそろ、・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・そこから谷底へおりてシャモニの村まで歩きましたが、道ばたの牧場には首へ鈴をつけた牛が放し飼いにしてあって、その鈴の音が非常にメロディアスに聞こえます。また番人の子供やばあさんもほんとうに絵のようで愉快でした。日本にもあるような秋草が咲いてい・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
出典:青空文庫