・・・ すると間もなく煙客翁は、庁堂へ案内されました。ここも紫檀の椅子机が、清らかに並べてありながら、冷たい埃の臭いがする、――やはり荒廃の気が鋪甎の上に、漂っているとでも言いそうなのです。しかし幸い出て来た主人は、病弱らしい顔はしていても、・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・「己は検非違使の庁の役人などではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄をかけて、どうしようと云うような事はない。ただ、今時分この門の上で、何をして居たのだか、それを己に話しさえすればいいのだ。」 すると、老婆は・・・ 芥川竜之介 「羅生門」
・・・また鎌倉政庁の耳目を聳動させたのももとよりのことであった。 法華経を広める者には必ず三類の怨敵が起こって、「遠離於塔寺」「悪口罵言」「刀杖瓦石」の難に会うべしという予言は、そのままに現われつつあった。そして日蓮はもとよりそれを期し、法華・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・実際鉄道庁で、この線路の列車の往復を一時増加しようかと評議をした位である。無論急行で、一等車ばかりを聯結しようと云うのであった。 その会議の結果はこうである。親族一同はポルジイに二つの道を示して、そのどれかを行わなくてはならないことにし・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・所謂「愛の庁」の憲法とはこれである。……盾の話しはこの憲法の盛に行われた時代に起った事と思え。 行く路を扼すとは、その上騎士の間に行われた習慣である。幅広からぬ往還に立ちて、通り掛りの武士に戦を挑む。二人の槍の穂先が撓って馬と馬の鼻頭が・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・東北長官一行の出遊につきこれより中には入るべからず。東北庁」 私はがっかりしてしまいました。慶次郎も顔を赤くして何べんも読み直していました。「困ったねえ、えらい人が来るんだよ。叱られるといけないからもう帰ろうか。」私が云いましたら慶・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・下山事件をみても、一ヵ月の間、検察庁は他殺か自殺か、わざと不明瞭にしたまま、ひっぱってきている。下山夫人が妻として良人の自殺を直感して、身辺の者にそのことを洩らしたという事実さえ今日まで公表させませんでした。夫人はどういう圧力に強要されたの・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・そのなかには当然言論出版の官僚統制をもたらす用紙割当事務庁法案があり、ラジオ法案がある。国会の人さえ知らないうちに用意されたこれらの法案は、形式上国会の屋根をくぐっただけで、事実上は官僚の手でこねあげられ、出来上った法律として権力をもってわ・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・闇の紙で出した部数が多ければ多いほど、これだけ無理をしているのだからと、次期の割当を増している出版協会の割当方法も奇妙だし、きのうの新聞に出たように、原稿料を基準に本の定価をきめる、という物価庁の意見も腑におちない。文化現象としてよりもイン・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・ 二、日本の文化の民主化を口実として、あらゆる機会に文化の官僚統制をもくろんでいる政府は、用紙割当事務庁案を具体化しようとしている。用紙の不足とそれにからむ不正取引摘発を機会に、内閣直属の用紙割当委員会を組織した。一九四六年に用紙割・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
出典:青空文庫