・・・この映画では電話局の故障修繕工夫が主人公になっている。それが友だちと二人で悪漢の銀行破りの現場に虜になって後ろ手に縛られていながら、巧みにナイフを使って火災報知器の導線を短絡させて消防隊を呼び寄せるが、火の手が見えないのでせっかく来た消防が・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・例えば下宿のおかみさんなどが、呼鈴や、その電池などの故障があったとき少しの故障なら、たいてい自分で直すのであった。当時はもちろん現在の日本でも、そういう下宿のお神さんはたぶん比較的に少ないであろうと思われる。室内電燈のスウィッチの、ちょっと・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・ とんぼやからすが飛行中に機関の故障を起こして墜落するという話は聞かない。飛行機は故障を起こしやすいようにできているから、それで故障を起こすし、鳥や虫は決して故障の起こらぬようにできているから故障が起こらなくても何も不思議はないわけであ・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・世の士君子、もしこの順席を錯て、他に治国の法を求めなば、時日を経るにしたがい、意外の故障を生じ、不得止して悪政を施すの場合に迫り、民庶もまた不得止して廉恥を忘るるの風俗に陥り、上下ともに失望して、ついには一国の独立もできざるにいたるべし。古・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・ゆえに世に害他利身の輩あるは、教育の未だあまねからずして、人生の未だ発達せざるものなれども、平安の主義はおのずからその間に行われて故障を見ざるものと知るべし。 形体の安楽を知りて精神の愉快を知らざる者は、とくに盗賊以下に限らず、現今世界・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・これは病人が病気に故障がある毎によく起こすやつでこれ位不愉快なものは無い。客観的に自己の死を感じるというのは変な言葉であるが、自己の形体が死んでも自己の考は生き残っていて、其考が自己の形体の死を客観的に見ておるのである。主観的の方は普通の人・・・ 正岡子規 「死後」
・・・ それにそんなに高く泣いて表の方へ聞えたらみんな私に故障を云って来るんでないか。そんなに泣いていけないよ。どうしてそんなに泣いてんだ。」 私はやっと云いました。「だって蜂雀がもう私に話さないんだもの。」 するとじいさんは高く・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
・・・一昨日の第二限ころなんか、なぜ燈台の灯を、規則以外に間〔一字分空白〕させるかって、あっちからもこっちからも、電話で故障が来ましたが、なあに、こっちがやるんじゃなくて、渡り鳥どもが、まっ黒にかたまって、あかしの前を通るのですから仕方ありません・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・田舎医者は、四肢の運動神経に故障の出来たわけが分らなかった。 今日はよかろう、明日はよかろう、夫婦ともそれを空だのみにして居たけれ共十日二十日と立つ中にそれも絶望となってしまった。 奈落のどん底に突落された様な明暮れの中に栄蔵は激し・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 艷やかな羽毛の紅色は褪せず、嘴さえルビーを刻んだようなので、内部の故障とは思い難い。丁度前の晩が霜でも下りそうに冷えたので、きっとその寒さに当たったのだろうと、夫は云う。 彼は、他のものまで凍えさせては大変だと云う風で、一も二もな・・・ 宮本百合子 「餌」
出典:青空文庫