・・・ 斎場は、小学校の教室とお寺の本堂とを、一つにしたような建築である。丸い柱や、両方のガラス窓が、はなはだみすぼらしい。正面には一段高い所があって、その上に朱塗の曲禄が三つすえてある。それが、その下に、一面に並べてある安直な椅子と、妙な対・・・ 芥川竜之介 「葬儀記」
・・・するとある日の午飯の時間に僕の組の先生が一人、号外を持って教室へかけこみ、「おい、みんな喜べ。大勝利だぞ」と声をかけた。この時の僕らの感激は確かにまた国民的だったのであろう。僕は中学を卒業しない前に国木田独歩の作品を読み、なんでも「電報」と・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・「げに天才の心こそカメレオンにも似たりけれ」と歌えるものは当時の久米正雄なり。「教室の机によれば何となく怒鳴つて見たい心地するなり」と歌えるものは当時の菊池寛なり。当時の恒藤に数篇の詩あるも、亦怪しむを要せざるべし。その一篇に云う。・・・ 芥川竜之介 「恒藤恭氏」
・・・ あっと思うと僕は梅組の教室の中にいました。僕の組は松組なのに、どうして梅組にはいりこんだか分りません。飯本先生が一銭銅貨を一枚皆に見せていらっしゃいました。「これを何枚呑むとお腹の痛みがなおりますか」 とお聞きになりました。・・・ 有島武郎 「僕の帽子のお話」
・・・窓から、あちらに遠くの森の頂が見えるお教室で、英語を先生から習ったのでした。 きけば、先生は、小さい時分にお父さんをおなくしになって、お母さんの手で育ったのでした。だから、この世の中の苦労も知っていらっしゃれば、また、どことなく、そのお・・・ 小川未明 「青い星の国へ」
・・・ しかし、鳥がそうする時分は、吉雄は、学校へいってしまって、教室にはいって、先生から、お修身や、算術を教わっているころなのでありました。 どこか、遠いところで、凧のうなる音が聞こえていました。そして、風が、すさまじく、すぎの木の頂を・・・ 小川未明 「ある日の先生と子供」
・・・みんなが教室に入っているのに、あなたばかりここに立っているのですか。私は、たいそうのどが渇いています。この水を飲ましてください。」と、つばめは飛んできて金だらいに止まっていいました。 子供は、いっそう悲しくなったのであります。「ああ・・・ 小川未明 「教師と子供」
・・・豹一はそれを教室へ持参し、クラスの者に見せた。彼らはかねてこのことあるを期待していたが、見せられると偽の手紙やろ。お前が書いたんと違うかと言わざるを得なかった。豹一は同級生がこっそり出していた恋文を紀代子からむりやりに奪い取って、それを教室・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ 私は希望通り現級に止まったが、私より一足さきに卒業した友人がノートを残して行ってくれたので、私は毎年同じ講義のノートをもう一つ作るために教室へ出掛けることは時間の空費だと思った。この考えは極めて合理的な考えであったが、同時にこれ以上不・・・ 織田作之助 「髪」
・・・――というのがもし誇張なら、一刻も煙草を手から離したくなかった――といいかえても良い。教室では教師がはいって来ると、もみ消さねばならなかったが、授業中吸えないというのが情けなくて、教師と入れちがいに教室をぬけ出すことがしばしばであった。遅刻・・・ 織田作之助 「中毒」
出典:青空文庫