・・・……何不足のない身の上とて、諸芸に携わり、風雅を楽む、就中、好んで心学一派のごとき通俗なる仏教を講じて、遍く近国を教導する知識だそうである。が、内々で、浮島をかなで読むお爺さん――浮島爺さんという渾名のあることも、また主人が附加えた。「・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・ されば、生れながらにして学に志し、畢生の精神を自身の研究と他人の教導とに用いて、その一方に長ずる者は、学問社会の長者にして、これまた一等官が政事の長者たるに異ならざるや、もとより明白なり。而してその相撲の大関または碁将棋の九段なる者が・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・生計に時を費せばおのずから塾生の教導を後にせざるをえず。その失、三なり。一、私塾には黜陟・与奪の公権なきがゆえに、人生天稟の礼譲に依頼して塾法を設け、生徒を導くの外、他に方便なし。人の義気・礼譲を鼓舞せんとするには、己れ自からこれに先だ・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
出典:青空文庫