・・・これを数える手はふるえ、数え終って自分は洋燈の火を熟と見つめた。直ぐこれを明日銀行に預けて帳簿の表を飾ろうと決定たのである。 又盗すまれてはと、箪笥に納うて錠を卸ろすや、今度は提革包の始末。これは妻の寝静まった後ならではと一先素知らぬ顔・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・かような愛読書ないし指導書は一生涯中数えるほどしかないものである。 たとえば私にとっては、テオドル・リップスの『倫理学の根本問題』はかような指導書の一つであった。かような指導書を見出したときには、これをくりかえし、幾度となく熟読し、玩味・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・七年の月日の間に数えるほどしか離れられてなかった今の住居から離れ、あの恵那山の見えるような静かな田舎に身を置いて、深いため息でも吐いて来たいと思う事もその一つであった。私のそばには、三十年ぶりで郷里を見に行くという年老いた嫂もいた。姪が連れ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・不慣れな私には、五千円の札を車の上で数えるだけでもちょっと容易でない。その私を見ると、次郎も末子も笑った。やがて次郎は何か思いついたように、やや中腰の姿勢をして、車のゆききや人通りの激しい外の町からこの私をおおい隠すようにした。 私たち・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・私は、娘が一と息で数えるだけの、羊と牛と山羊と馬と豚を、お祝いにやりましょう。しかしお前さんが、これからさきこの娘を、何のつみもないのに、三べんおぶちだと、すぐにこちらへとりもどしてしまいますよ。」と言いました。ギンはおおよろこびで、「・・・ 鈴木三重吉 「湖水の女」
・・・大いに親しい人ならば、そうしておいでになる日が予めわかっているならば、ちゃんと用意をして、徹宵、くつろいで呑み合うのであるが、そんな親しい人は、私に、ほんの数えるほどしかない。そんな親しい人ならば、どんな貧しい肴でも恥ずかしくないし、家の者・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・ 私の友人は、ほんの数えるくらいしか無い。私は、その少数の友人にも、自作の註釈をした事は無い。発表しても、黙っている。あそこの所には苦心をしました、など一度も言った事が無い。興覚めなのである。そんな、苦心談でもって人を圧倒して迄、お・・・ 太宰治 「自作を語る」
・・・溜息の音楽を奏して、日を数える算術をしたのである。 こう云うわけで、二つの出来事が落ち合った。小さい銀行員が漫遊から帰って来て珍らしがられると云うことが一つ、ポルジイ中尉が再びウィインの交際社会に現われたと云うことが一つである。そしてポ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・を名とする火山を三つに数えると n = 5 となり、子音数9とすれば R = 5×72÷47 = 7.5 となる。 以上の場合に得たRの価はいずれも1に対して相当多いものである。従って単なる偶然と見る事は少しむつかしく思われて来るのであ・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・そうするとこれは普通にいわゆる五官の外の第六官に数えるべきものかもしれない。してみると煙草をのまない人はのむ人に比べて一官分だけの感覚を棄権している訳で、眼の明いているのに目隠しをしているようなことになるのかもしれない。 それはとにかく・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
出典:青空文庫