・・・ だまってその譜を聞いていると、そこらにいちめん黄いろやうすい緑の明るい野原か敷物かがひろがり、またまっ白な蝋のような露が太陽の面を擦めて行くように思われました。「まあ、あの烏。」カムパネルラのとなりのかおると呼ばれた女の子が叫びま・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・居間は以前は地べたに敷物を敷いたばかりでしたが、此頃では大抵の家で低い床を張っているようであります。私は或る日、アイヌの旧家に行ってみましたが、三尺の入口に菰が垂れていて、その菰を押して入ると奥は真暗で、そこにまた真黒な犬がいました。そして・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・それに瑠璃色の硯屏と白い原稿紙、可愛い円るい傘のスタンド、イギリス産の洋紅に染めつけた麻の敷物なぞ、どれもわたくしの好きなものばかりです。 音楽、絵画その他 近頃は音楽を聴くよりも絵を見ることの方が多いのですが・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・書もの卓子などがあるが、下は、韃靼風によく磨いた床に色彩の濃い敷物と沢山のクッションが置いてある。 韃靼の年よりは別に説明もせず、ただ先に立って戸という戸を勢よくあけ、次から次へ内を見せるのである。戸をあけ、自分はこっちに立って手でサア・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・四方にはドッシリした錦の織物を下げて床には深青の敷物をしきつめる。大きな卓子をはさんで二つ椅子。大理石で少し赤味を帯び大形で彫刻の立派な方は玉座であるべき事をも一つの方をすべて粗末にして思わせる。卓子の上には切りたての鵞ペン・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ゴーリキイは主人が家具、敷物、鏡その他に執着し、こせこせとそれらを自分の家の中に詰め込むのが厭わしかった。市場の倉庫からサモワールだの箱だの鋏までくすねて来るのを見るのは厭しかった。その不恰好な置かたや塗料の匂いまで癪にさわった。彼のまわり・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・あれが一面に生い育って、緑の敷物のように広がっているのは、実に美しいものである。桂離宮の玄関前とか、大徳寺真珠庵の方丈の庭とかは、その代表的なものと言ってよい。嵯峨の臨川寺の本堂前も、二十七、八年前からそういう苔庭になっている。こういう杉苔・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫