・・・―― これは近頃の事であるが、遠く文献を溯っても、彼に関する記録は、随所に発見される。その中で、最も古いのは、恐らくマシウ・パリスの編纂したセント・アルバンスの修道院の年代記に出ている記事であろう。これによると、大アルメニアの大僧正が、・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・ 誤れる社会に、正しい歴史の文献はあり得ない。いかに、今日、人事に対する批評判断のいゝ加減なることよ。これが、たゞちに記録となって、将来の歴史を編成するのである。 誠実に、生きるものは、もとより記録を残すと否とについて考えない筈・・・ 小川未明 「自由なる空想」
・・・故にその時代を見ようと思えば、当時の雑誌こそ、何より有益な文献でなければなりません。 この意味からいっても、同人雑誌は極めて有意義のものです。新しい芸術上の運動も、そのはじめは、同志の綜合であり、同人雑誌を戦闘の機関としなかったものはな・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・いちいち例をあげてその相違をあげると面白いのだが、私はいまこの原稿を旅先きで書いていて手元に一冊も文献がないので、それは今後連続的に発表するこの文学的大阪論の何回目かで書くことにして、ここでは簡単に気づいたことだけ言うことにする。 宇野・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・文楽は小屋が焼け人形衣裳が焼け、松竹会長の白井さんの邸宅や紋下の古靱太夫の邸宅にあった文献一切も失われてしまったので、もう文楽は亡びてしまうものと危まれていたが、白井さんや古靱太夫はじめ文楽関係者は罹炎名取である尚子さんは、私に語った。因み・・・ 織田作之助 「起ち上る大阪」
・・・それに、年来の宿痾が図書館の古い文献を十分に調べることを妨げた。なお、戦争に関する詩歌についても、与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」、石川啄木の「マカロフ提督追悼の詩」を始め戦争に際しては多くが簇出しているし、また日露戦争中、二葉亭がガ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・たい、そうして日夕相親しみ、古代の雰囲気にじかに触れてみたい、深山幽谷のいぶきにしびれるくらい接してみたい、頃日、水族館にて二尺くらいの山椒魚を見て、それから思うところあってあれこれと山椒魚に就いて諸文献を調べてみましたが、調べて行くうちに・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・「こんなのを書きたいと思いまして、文献を集めているのですよ。」 僕は薄茶の茶碗をしたに置いて、その二三枚の紙片を受けとった。婦人雑誌あたりの切り抜きらしく、四季の渡り鳥という題が印刷されていた。「ねえ。この写真がいいでしょう? ・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・白石国太郎先生創製、ネオ・ボンタージン。文献無代贈呈。』――『寄席芝居の背景は、約十枚でこと足ります。野面。塀外。海岸。川端。山中。宮前。貧家。座敷。洋館なぞで、これがどの狂言にでも使われます。だから床の間の掛物は年が年中朝日と鶴。警察、病・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ その大正七、八年の社会状勢はどうであったか、そうしてその後のデモクラシイの思潮は日本に於いてどうなったか、それはいずれ然るべき文献を調べたらわかるであろうが、しかし、いまそれを報告するのは、私のこの手記の目的ではない。私は市井の作家で・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
出典:青空文庫