・・・カールはこの状況のもとで大学教授を思いすてた。文筆人として「内部の光」を「焔として」表現する決心をした。『ドイツ年誌』への寄稿をはじめた。カールはこの頃、ボンに住んだり、トリエルのヴェストファーレン家に暮したりして、つぎつぎの家庭的紛争に心・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・で公然と文筆活動をしていた小林多喜二、宮本顕治その他の人々が、一九三二年三月以後はこれまでの活動の形をかえて、地下的に生活し働かなければならないようになった。わたしも一九三二年四月七日に検挙されて六月十八日ごろまで、警察にとめられていた。小・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
日本語と云うものが、地球上、余り狭小な部分にのみ通用する国語であると云うことは、文筆に携る者にとって、功利的に考えれば、第一、損な立場であると思います。 使用上、所謂、敬語、階級的な感情、観念を現す差別の多いこと、女の・・・ 宮本百合子 「芸術家と国語」
・・・ そして文筆も必して商売的でなくみっちりと重味のある考え深いしまった調子で書かなければなりません。 健な筆で書かなければいけないんです。 流行的な気分を打ち破って澄んだ心を表わさなければいけないんです。 教科書よりも力のある・・・ 宮本百合子 「現今の少女小説について」
・・・だが、器楽を専門にはやれないので、音楽に関する文筆の仕事に向いつつあり。ドイツ語なども一人でいつの間にかはじめている。ところが音楽の方はおくれていて、まともな音楽史一冊出ていず、芸術史にしろ、今日の到達点において書かれたのはないから教育上閉・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・著者の文筆におのずからそなわっていたというわけでもあろうか。 跋を見れば、きょうの著者の日々は官舎に暮す小柄な軽口をいう無邪気な若い主婦の暮しである。 あの八月九日の夜、新京から真先に遁走を開始した関東軍とその家族とは、三人の子をつ・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・するとすれば、ロマンチシズムが世界の帝国主義時代の廃頽の中にあって益々その危険をつよめている。欲するがままに行為せんとする力はもたず、ロマンチストと我から称する横光氏は、「可能の世界を創造」する文筆の幻の範囲でのロマンチストであろう。そして・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・大いに堂々と云われている結論なり断定なりが、十分精密強固な客観的事実の綜合の結果として、そう云われざるを得ないものであったことを文章のなかで自然と納得させて行く、という魅力、説得力を欠いている。文筆上の軍需景気とユーモアをもってゴシップに現・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
・・・科学者の文筆活動の示し得る望ましい美は、こういう統一の姿においてではなかろうか。今日の科学の可能と明日の科学のために未だのこされている客観的現実の豊饒さ、科学的方法が年から年へ進歩する行進曲の意味を心と身にひき添えて科学者たることを生きる歓・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・あるとき藤村は、相当の富豪の息子で、文筆の仕事に携わろうとしている人の住宅の噂をしたことがある。藤村はその住宅の大きく立派であることを話したあとで、あの程度の仕事をしていながら、あんな立派な家に住んでいて、よく恥ずかしくないものだと思います・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫