・・・その新進作家が、この一作によって、いよいよ文運がさかんになるぞと考えたのである。 もはや私にとって、なんの恐ろしいこともない。私は輝かしき新進作家である。私は、からだじゅうにむくむくと自信の満ちて来るのを覚えた。 その日の夕方、私は・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
・・・余はただ吾邦未来の文運のために云うのである。 夏目漱石 「作物の批評」
『学問の独立』緒言 近年、我が日本において、都鄙上下の別なく、学問の流行すること、古来、未だその比を見ず。実に文運降盛の秋と称すべし。然るに、時運の然らしむるところ、人民、字を知るとともに大いに政治の思想を喚・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・百年以来、仏蘭西にて騒乱しきりに起り、政治しばしば革るといえども、その文運はいぜんたるのみならず、騒乱の際にも、日に増し月に進み、文明を世界に耀かしたるは、ひっきょう、その文学の独立せるがゆえならん。かつまた、文脩まれば武備もしたがって起り・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・本日たまたま中元、同社、手から酒肴を調理し、一杯をあげて、文運の地におちざるを祝す。 慶応四年戊辰七月慶応義塾同社 誌 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・ただこの時代が文学美術全般の勃興を成したるは文運の隆盛を促すべき大勢に駆られたるものにして、その大勢なるものはかえって各種の文学美術が相互に影響したる結果も多かりけん。 蕪村の交わりし俳人は太祇、蓼太、暁台らにしてそのうち暁台は蕪村に擬・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・数の上では文運隆盛の趣を示しているかのようである。 一体、日本の現代文学の分野で、これだけあまたの賞というものはいつ頃、どのような社会の事情、文学の機運によって生れて来たものであろうか。文学に関する賞についてだけ考えて見ると、これらの賞・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・その各自の熱情に従って、その美しき叡智と純情とに従って、もしも其爆発力の表現手段が分裂したとしたならば、それは明日の文学の祝福すべき一大文運であらねばならぬ。そうして、明日の文学は分裂するであろう。大いなる酒神は、かの愚な時計の振り子の如く・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫