・・・一般には云われないまでもそういう了簡の人もまるでないとは云われないようである。 そういう事のないように、その特別な一日を起点としてその後引続いて善い事をする習慣をつけるという目的で、少なくも今度の「節約日」は宣伝され奨励されたものであろ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そうしてこの考えを押し拡げて吾人の身辺を囲繞するあらゆる変化を因果をもって律しようという了見から何かその変化の原因となるものを考えたいので、この原因に力という語を転用するに至ったのであろう。普通に云う力学上の力はすなわちいわゆる機械的の力で・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・それも他人の犬であったらそういう念慮も起らなかったであろうが、衷心非常な苦悩を有して居れば居る程太十の態度が可笑しいので罪のない悪い料簡がどうかすると人々の心に萠すのであった。「殺しちまあ」 太十がいった其声は顫えて居た。犬の身に起・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・けれどもその面白味はあの初菊という女の胴や手が蛇のように三味線につれて、ひなひなするから面白かったんで、人情の発現として泣く了簡は毛頭なかったんです。この点において私と芝居通の諸君と一致しているかどうだか伺います。御婆さんに賛成なさるか、私・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・つまるところは人間生存上の必要上何か仕事をしなければならないのを、なろう事ならしないで用を足してそうして満足に生きていたいというわがままな了簡、と申しましょうかまたはそうそう身を粉にしてまで働いて生きているんじゃ割に合わない、馬鹿にするない・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・今の評家はかほどの事を知らぬ訳ではあるまいから、御互にこう云う了見で過去を研究して、御互に得た結果を交換して自然と吾邦将来の批評の土台を築いたらよかろうと相談をするのである。実は西洋でもさほど進歩しておらんと思う。 余は今日までに多少の・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・する以上は、自己の存在を確実にし、此処に個人があるということを他にも知らせねばならぬ位の了見は、常人と同じ様に持っていたかも知れぬ。けれども創作の方面で自己を発揮しようとは、創作をやる前迄も別段考えていなかった。 話が自分の経歴見たよう・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・政府のためを謀れば、はなはだ不便利なり、当人のためを謀れば、はなはだ不了簡なり。今の学者は政府の政談の外に、なお急にして重大なるものなしと思うか。 手近くここにその一、二を示さん。学者はかの公私に雇われたる外国人を見ずや。この外国人は莫・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・もう経営のことは男の人たちにまかせておいてもいいなどという料簡ではいられないこと。クラブの機関紙としてこそ用紙の割当が許可され、みんなも慾得ぬきに執筆し、クラブそのものは少しずつでも大きくなってきているのに、ここで新聞を経営部の主張によって・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・ この檀那に一本お見舞申して、金を捲き上げようと云う料簡で、ツァウォツキイは鉄道の堤の脇にしゃがんでいた。しかしややしばらくしてツァウォツキイは気が附いた。それは自分が後れたと云うことである。リンツマンの檀那はもう疾っくに金を製造所へ持・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫