・・・お互いにまだ友人になりきれずにいる新入生たちは、教室のおのおのの机に坐ってブルウル氏を待ちつつ、敵意に燃える瞳を煙草のけむりのかげからひそかに投げつけ合った。寒そうに細い肩をすぼませて教室へはいって来たブルウル氏は、やがてほろにがく微笑みつ・・・ 太宰治 「猿面冠者」
一九〇九年五月十九日にベルリンの王立フリードリヒ・ウィルヘルム大学の哲学部学生として入学した人々の中に黄色い顔をした自分も交じっていた。厳かな入学宣誓式が行われて、自分も大勢の新入生の中にまき込まれて大講堂へ這入ったが、様・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・ぼんやりとしてそれでいて何だか堅苦しそうにしている新入生はおかしなものだ。ところがいまにみんな暴れ出す。来年になるとあれがみんな二年生になっていい気になる。さ来年はみんな僕らのようになってまた新入生をわらう。そう考えると何だか変な気がする。・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・ みなさまはこの数日来、卒業し、送別会、上級学校の新入生としての歓迎会と、若々しい人生の一つの門から他の門へとおくぐりになりました。その間に、いろいろのことをお感じになっていることと思います。そのさまざまな感じのなかで、きょうに生き・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・ 昨今ひとめで新入生とわかる子供たちを見ると、まあまあ、御苦労様だった、とその子の親をもこめて思う気持になるのは、私ひとりの感情ではないであろう。丁度三月の末、あちこちの入学試験のはじまる時分のことであった。公衆電話をかけに行ったら、先・・・ 宮本百合子 「新入生」
・・・わたくしたちは新入生としてこれを聞いた。事によると紀平氏の講義の代わりに西田先生の講義が聞けたかも知れないというような事情が当時あったということは、この日記を読むまでわたくしは知らなかったのである。なお日記には、右のことから一か月も経たない・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫