・・・政府は、旅券をよこさなかった。農民にソヴェト同盟の真の姿を見せまいとするのである。 現に中国のソヴェト区域の農民はもう集団農場の方法で耕作し、収穫も高めはじめている。 ソヴェト同盟を守〔一九三三年三月〕・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・ 六月或日 Y机の前で旅券下附願につける保証書の印を加茂へもらいに送るその用の手紙書きつつ「ねえべこちゃん、これ切手はらないでいいんだろうか――印紙を」「ハハハハもやでもそういう感違いするのね ハハハハ愉快愉・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・大日本の外国旅券を! ――パスポートを持って歩いてたのか? ――ああ。そしたら、その女は笑ったよ、そして「まあいい」って云った。後からこの様子を見下していた大きい労働者風の男が、「そうとも! それだって一種の手帳だ」と云った。笑っち・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・世界的な権威ある数学者で、魅力のある文章をも書いたソーニャ・コバレフスカヤが、まだ若い娘で勉強のため教授コバレフスキーと旅券結婚をしてスウィスへ行ったのもこの時分のことである。これらの、ロシア的情熱に燃え、つよい意志をもった新時代のチャンピ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ドイツへの留学生を選抜するため農商務省でドイツ語の論文をかかせられ、一等になって、もう旅券が下りるというとき、あれは下島にしては出来すぎだ、兄が論文を書いたのだろうという中傷が加えられた。そして、二等だった誰かべつの人がドイツへ行った。下島・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・ 日本の婦人デーを三月八日から四月十日にきめようとして新聞の世論調査を動員し、旧式な反民主的な婦人運動者たちまでを動員した政府は、世界平和大会やアジア婦人大会への代表の旅券は与えないで、おかいどりを着た田中絹代のために許可を与えたり、陸・・・ 宮本百合子 「婦人デーとひな祭」
・・・彼を落付かせているものがよしんば何であろうとも、彼はそれを旅券や財布とともにパリの真中でも落しっこない人なのである。 横光利一氏はそうはゆかない。向うのことは何にも分らないで白鳥のように安心も出来ないし、同時に此方のことが何にも分らない・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・黄葉した植込みの奥のもっと黄色い柱列を入って行って、旅券の後に添付されてるSSSL居住許可証を返して来た。桃色の大判用紙をはがすとき、掛りの男は紙を旅券につけていた赤い封蝋をこわした。封蝋はポロポロ砕け、樺の事務机の上にこぼれた。日本女は今・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
こんど同行する湯浅芳子さんは七月頃既に旅券が下附されていたのだが、私が行くとも行かぬともはっきり態度が決らなかったので湯浅さんも延び延びになっていたのです。然し私もロシヤへは以前から行って見たい希望を持っていたのです。行く・・・ 宮本百合子 「ロシヤに行く心」
出典:青空文庫