・・・ 朝日が日向灘から昇ってつの字崎の半面は紅霞につつまれた。茫々たる海の極は遠く太平洋の水と連なりて水平線上は雲一つ見えない、また四国地が波の上に鮮やかに見える。すべての眺望が高遠、壮大で、かつ優美である。 一同は寒気を防ぐために盛ん・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・臼杵川は日向灘とつながって潮の満干が極めて著しい。臼杵へ出入りする船の便宜を計って、川と中島との間に橋というものは一つもない。軽舟に棹さして悠暢に別荘への往復をするのだが、楓樹の多いこの庭が、ついた日の暮方夕立に濡れて何ともいえない風情であ・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・臼杵の、日向灘を展望する奇麗な公園からK氏の別荘へぶらぶら帰る時であった。Y、「どうする? やはり中津へ廻る?」「――ふうむ……」二人ながら進まない気持がある。天然痘がひどいのが一つ、小杉未醒氏の「大雅堂」によって、幾分自性寺の所蔵品に対す・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫