・・・唯物史観に立脚するマルクスは、そのままに放置しておいても、資本主義的経済生活は自分で醸した内分泌の毒素によって、早晩崩壊すべきを予定していたにしても、その崩壊作用をある階級の自覚的な努力によって早めようとしたことは争われない。そして彼はその・・・ 有島武郎 「想片」
・・・そして私には木村が、たといあの時、故郷に帰らないでも、早晩、どこにか隠れてしまって、都会の人として人中に顔を出す人でないと思われます。木村が好んで出さないのでもない、ただ彼自身の成り行きが、そうなるように私には思われます。樋口も同じ事で、木・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・たいていの妻子ある男性との結合は女性にとって、それが素人の娘であるにせよ、あるいはいわゆる囲い者であるにせよ、早晩こうした別離の分岐点に立たねばならなくなるのが普通である。そこには相互の間に涙の感謝と思い出と弁解とがあるであろうが、しかもこ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・私はこの種の研究が早晩日本の学者の手で遂行される事を望んでいる。 私が初めて平円盤蓄音機に出会ったのは、瀬戸内海通いの汽船の客室であったように記憶する。その後大学生時代に神戸と郷里との間を往復する汽船の中でいつも粗悪な平円盤レコードの音・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・人間としてこの性質を帯びている以上は作物の上にも早晩この性質を発揮するのが天下の趨勢である。いわゆる混戦時代が始まって、彼我相通じ、しかも彼我相守り、自己の特色を失わざると共に、同圏異圏の臭味を帯びざるようになった暁が、わが文壇の歴史に一段・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・しかも彼の財産は早晩家賃のかたに取られるという始末だ。しかし憐れなる姉妹は別段取押えられて困るような物も持っていない。差配もそれには目をつけておらん。ただこの老差配の目ざしているのは亭主その人の家財にある。亭主も二十世紀の人間だからその辺に・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・その天稟の能力なるものは、あたかも土の中に埋れる種の如く、早晩萌芽を出すの性質は天然自然に備えたるものなり。されども能くその萌芽を出して立派に生長すると否らざるとは、単に手入れの行届くと行届かざるとに依るなり。即ち培養の厚薄良否に依るという・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・ 結局、今の横文帳合はなにほどに流行するも、早晩、いずれのところにか突当りて、上流と下流との関所を生ぜざるをえず。縦の帳合はその入門の路、たとい困難なるも、関所を生ずるの患なし。たとえば今、日本大政府の諸省に用うる十露盤も、寒村僻邑の小・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・その頃露伴が予に謂うには、君は好んで人と議論を闘わして、ほとんど百戦百勝という有様であるが、善く泅ぐものは水に溺れ、善く騎るものは馬より墜つる訣で、早晩一の大議論家が出て、君をして一敗地に塗れしむるであろうと云った。この言はある意味より見れ・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・ 察するに亀蔵は、早晩泊番の中の誰かを殺して金を盗もうと、兼て謀っていたのであろう。奥羽その外の凶歉のために、江戸は物価の騰貴した年なので、心得違のものが出来たのであろうと云うことになった。天保四年は小売米百文に五合五勺になった。天明以・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫