・・・そのほうが早道である。三年前のお正月、僕は草田の家に年始に行った。僕は、友人にも時たまそれを指摘されるのだが、よっぽど、ひがみ根性の強い男らしい。ことに、八年前ある事情で生家から離れ、自分ひとりで、極貧に近いその日暮しをはじめるようになって・・・ 太宰治 「水仙」
・・・田舎者の出世の早道は、上京にある。しかも、その田舎者は、いい加減なところで必ず帰郷するのである。そこが秘訣だ。その家族と喧嘩をして、追われるように田舎から出て来て、博覧会も、二重橋も、四十七士の墓も見たことがないそのような上京者は、私たちの・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・「文学の大衆化を、文字通り自分の眼前で実行するには、権力又は政治党派と結合するのが早道である。私は誇張した例を挙げよう。例えばネロは、権力によって自己の作品を大衆に強制した。このギリシヤかぶれの暴君は、自分の作品を非難する者を容赦なく殺した・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫