・・・ 先刻から覚めてはいるけれど、尚お眼を瞑ったままで臥ているのは、閉じたまぶたごしにも日光が見透されて、開けば必ず眼を射られるを厭うからであるが、しかし考えてみれば、斯う寂然としていた方が勝であろう。昨日……たしか昨日と思うが、傷を負ってか・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・がやっぱし細君からの為替が来てなかった。昨日の朝出した電報の返事すら来てなかった。 三 その翌日の午後、彼は思案に余って、横井を署へ訪ねて行った。明け放した受附の室とは別室になった奥から、横井は大きな体躯をのそり/\・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ しかし、昨日、一昨日、俺の心をひどく陰気にしたものもそれなのだ。俺にはその美しさがなにか信じられないもののような気がした。俺は反対に不安になり、憂鬱になり、空虚な気持になった。しかし、俺はいまやっとわかった。 おまえ、この爛漫と咲・・・ 梶井基次郎 「桜の樹の下には」
この度は貞夫に結構なる御品御贈り下されありがたく存じ候、お約束の写真ようよう昨日でき上がり候間二枚さし上げ申し候、内一枚は上田の姉に御届け下されたく候、ご覧のごとくますます肥え太りてもはや祖父様のお手には荷が少々勝ち過ぎる・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・それが、丁度、地下から突き出て来るように、一昨日よりは昨日、昨日よりは今日の方がより高くもれ上って来た。彼は、やはり西伯利亜だと思った。氷が次第に地上にもれ上って来ることなどは、内地では見られない現象だ。 子供達は、言葉がうまく通じない・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・とうとうあまり釣れるために晩くなって終いまして、昨日と同じような暮方になりました。それで、もう釣もお終いにしようなあというので、蛇口から糸を外して、そうしてそれを蔵って、竿は苫裏に上げました。だんだんと帰って来るというと、また江戸の方に燈が・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・ こんなことを三吉が言出すと、お新は思わずその話に釣り込まれたという風で、「ほんとに、昨日のようにびっくりしたことはない。お母さんがあんな危ないことをするんだもの。炭俵に火なぞをつけて、あんな垣根の方へ投ってやるんだもの。わたしは、・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・ウイリイは、その朝早く起きて窓の外を見ますと、家の戸口のまん前に、昨日までそんなものは何にもなかったのに、いつのまにか、きれいな小さな家が出来ていました。ふた親もおどろいて出て見ました。上から下まできれいな彫り飾りがついたりしていて、ウイリ・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・の印税を昨日、本屋からもらいましたので。なおまた、詩人の加納さんとは、未だ一度もお逢いした事はありませんが、あなたから、機会がございましたら、木戸がよろこんでいたとおっしゃって下さい。加納さんは、私と同郷の、千葉の人なのです。頓首。 ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ 「病気で、昨日まで大石橋の病院にいたものですから」 「病気がもう治ったのか」 無意味にうなずいた。 「病気でつらいだろうが、おりてくれ。急いで行かんけりゃならんのだから。遼陽が始まったでナ」 「遼陽!」 この一語は・・・ 田山花袋 「一兵卒」
出典:青空文庫