・・・実は昨晩も電報を打ちましたようなわけで、実はその、逃げたというわけでもありません。丁度一昨昨日の朝、一寸した用事で家から大学校の小使室まで参りましたのですが、ついそのフゥフィーボー博士の講義につり込まれまして昨日まで三日というもの、聴いたり・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・「はい、お陰で昨晩戻って参りました。これは報告でございます。集めた標本類は整理いたしましてから目録をつくって後ほど持って参ります。」「うん、そう急がないでもよろしい。」所長はカラーをはめてしまってしゃんとなりました。 わたくしは・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・餌壺は、恐らく昨晩のうち、僅かの選屑と、なかみを割って食べた殼ばかりになって居たのだろう。二時迄机に向って居なければならなかった私共に、其を知る余裕はなかった。 気の毒な小鳥等は、日の出とともに眼を醒し、兎に角嘴に割れるほどの実は食べつ・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・手つだいの人達が気の毒に思って自分達の方へ寝かしてくれ、一晩でかぶとを脱ぎ、昨晩は、さてこれから一合戦と覚悟をきめていたら、思いもかけず眠り通して六時半の太郎の目覚ましで、私も起きた時には思わず床の上に坐って、しげしげと泰子の寝顔を眺めまし・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・やっと故国へ近づいて明日は入港という時に卵焼の中毒で、九人もの人が僅かの時間のうちに相ついで死んで行ったし、病気でいる人が百二十五名だということは、これまで聞いたことのなかった不幸な出来ごとである。昨晩の夕刊はこの悲しい入港とその同じ船にの・・・ 宮本百合子 「龍田丸の中毒事件」
・・・ところが、Y、昨晩床に入る時、大分工合を悪がった。天然痘流行の為、私達は念の為大分の臼杵で種痘をした。Y、十四位のとき種痘したぎりで、どうも全感らしく、崇福寺の裏の高い段々を降る時など、気分が悪くなったらしかった。今朝、発熱し動かれない。私・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・ 小学校の先生は、自分の家の縁側に出て、「ひどく吹きやしたなあどうも昨晩は妙に凍ると思いやしたよ。とこっちの縁側へ朝のあいさつをした。女中は手がかじかんで、湯のみ茶碗を破って仕舞うほどだった。朝になってもまだ、少し許り吹・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・第一の女 私だって只きいたばっかりの事なんでございますけど…… 昨晩でございますわ。 もうお月様がお沈みなさった頃、たくで御前から下って参りましてねえ。 私の顔を見るなり斯う申しましたの。 「陛下は大変御不機嫌でいらっし・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ひろ子は、そこへ行って、「昨晩はありがとうございました」と云った。「あんなにしてわざわざ来て頂いたりしたときには来なくて、わたしが待ちくたびれて腰ぬけになったら、かえって。――石田です」 うしろに立っていた重吉を紹介した。重・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・「昨晩私のそばにいた貴婦人がひとり急に痙攣ちゃって、大騒ぎでしたの。そのかたも喜劇を演りにペテルスブルグへいらっしゃるんですって。デュウゼとかって名前でしたよ。ご存じでいらっしゃいますか。」そういってその娘の指さす方を見ると、うなだれた暗い・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫