・・・ 牛は、穏やかな大きな目をみはって、遠方の日の光に照らされて暑そうな景色を見ていましたが、からすが頭の上でこう問いますと、「俺の主人は、あちらの茶屋で昼寝をしているのだ。」と答えました。 これを聞くとからすは、「なんて人間と・・・ 小川未明 「馬を殺したからす」
・・・彼等は居心地が良いのか、あるいは居坐りで原稿を取るつもりか、それとも武田さんの傍で時間をつぶすのがうれしいのか、なかなか帰ろうとせず、しまいには記者同志片隅に集って将棋をしたり、昼寝をしたりしていた。 武田さんはそれらの客にいちいち相手・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・ 峻がここへ来る時によく見る、亭の中で昼寝をしたり海を眺めたりする人がまた来ていて、今日は子守娘と親しそうに話をしている。 蝉取竿を持った子供があちこちする。虫籠を持たされた児は、時どき立ち留まっては籠の中を見、また竿の方を見ては小・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・お島は急いで昼寝をしている子供の方へ行った。庭の方から入って来た蜂は表の方へ通り抜けた。「鞠ちゃんはどうしたろう」と高瀬がこの家で生れた姉娘のことを聞いた。「屋外で遊んでます」「また大工さんの家の娘と遊んでいるじゃないか。あの娘・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ 深い真昼時、船頭や漁夫は食事に行き、村人は昼寝をし、小鳥は鳴を鎮めて渡舟さえ動かず、いつも忙しい世界が、その働きをぴたりと止めて、急に淋しくおそろしいように成った時、宏い宏い、心に喰い入るような空の下には、唯、物を云わない自然と、こそ・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・あなたは藤棚の下のベンチに横わり、いい顔をして、昼寝していました。私の名は、カメよカメよ、と申します。」 月日。「きょうは妙に心もとない手紙拝見。熱の出る心配があるのにビイルをのんだというのは君の手落ちではないかと考えます。君に・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 雨の日には、茶店の隅でむしろをかぶって昼寝をした。茶店の上には樫の大木がしげった枝をさしのべていていい雨よけになった。 つまりそれまでのスワは、どうどうと落ちる滝を眺めては、こんなに沢山水が落ちてはいつかきっとなくなって了うにちが・・・ 太宰治 「魚服記」
・・・「きょうはね、ちょっと重いものを背負ったから、少し疲れて、いままで昼寝をしていたの。ああ、そう、いいものがある。お部屋へあがったらどう? 割に安いのよ。」 どうやら商売の話らしい。もうけ口なら、部屋の汚なさなど問題でない。田島は、靴・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ネロが昼寝していたとき、誰とも知られぬやわらかき手が、ネロの鼻孔と、口とを、水に濡れた薔薇の葉二枚でもって覆い、これを窒息させ死にいたらしめむと企てた。アグリパイナは、憤怒に蒼ざめ、――」「待て、待て。」詩人は、悲鳴に似た叫びを挙げた。・・・ 太宰治 「古典風」
・・・と読み、昼寝の顔をせせるいたずらもの、ないしは臭いものへの道しるべと考えられていた。張ったばかりの天井にふんの砂子を散らしたり、馬の眼瞼をなめただらして盲目にする厄介ものとも見られていた。近代になって、これが各種の伝染病菌の運搬者、播布者と・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
出典:青空文庫