・・・それに普通の冷たやつやったら嘗めにくいけど行燈の奴は火イで温くめたアるによって、嘗めやすい。と、まあ、こんなわけだす。いまでも、栄養不良の者は肝油たらいうてやっぱり油飲むやおまへんか。それ考えたら、石油が肺に効くいうたことぐらいは、ちゃんと・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・それからビールや酒や料理が廻って、普通の宴会になった。非常な盛会だ――誰しもこう思わずにはいられなかっただろう。 十一時近くなって、散会になった。後に残ったのは笹川と六人の彼の友だちと、それに会社員の若い法学士とであった。そして会計もす・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・ 食事は普通人程の分量は頂きました。お医者様が「偉いナー私より多いがナー」と言われる位で有りました。二十日ばかり心臓を冷やしている間、仕方が無い程気分の悪い日と、また少し気分のよい日もあって、それが次第に楽になり、もう冷やす必要も無いと・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・しかしその谷に当ったところには陰気なじめじめした家が、普通の通行人のための路ではないような隘路をかくして、朽ちてゆくばかりの存在を続けているのだった。 石田はその路を通ってゆくとき、誰かに咎められはしないかというようなうしろめたさを感じ・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
餅は円形きが普通なるわざと三角にひねりて客の目を惹かんと企みしようなれど実は餡をつつむに手数のかからぬ工夫不思議にあたりて、三角餅の名いつしかその近在に広まり、この茶店の小さいに似合わぬ繁盛、しかし餅ばかりでは上戸が困ると・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・とは普通には、行為の選択の自由のいいである。一つの行為をなすまいと思えば為さずにすんだのに、為したという意味である。しかし反省すればこれは不思議なことである。意志決定の際、われわれはさまざまの動機の中から一つの動機を選択してこれを目標とした・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 曹長は、それから、彼の兄弟のことや、内地へ帰ってからどういう仕事をしようと思っているか、P村ではどういう知人があるか、自分は普通文官試験を受けようと思っているとか、一時間ばかりとりとめもない話をした。曹長は現役志願をして入営した。曹長・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・その男は極めて普通人型の出来の好い方で、晩学ではあったが大学も二年生まで漕ぎ付けた。というものはその男が最初甚だしい貧家に生れたので、思うように師を得て学に就くという訳には出来なかったので、田舎の小学を卒ると、やがて自活生活に入って、小学の・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・ 然り是実に普通法衙の苟も為さざる所也。普通民法刑法の苟も許さざる所也。 而も赳々たる幾万の豼貅、一個の進んでドレフューの為めに、其寃を鳴し以って再審を促す者あらざりき。皆曰く。寧ろ一人の無辜を殺すも陸軍の醜辱を掩蔽するに如かずと。・・・ 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・それは普通いう「道徳的意識」からではなしに、彼の金で女の「人間として」の人格を侮辱することを苦しく思うことはもっと彼自身にとってぴったりした、生えぬきの気持からだった。 友だちといっしょにこういう処にくることがあった。が、彼はしまいまで・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
出典:青空文庫