・・・…… 呼吸が切れ、目が眩むと、あたかも三つ目と想う段の継目の、わずかに身を容るるばかりの石の上へ仰ぎ倒れた。胸は上の段、およそ百ばかりに高く波を打ち、足は下の段、およそ百ばかりに震えて重い。いまにも胴中から裂けそうで、串戯どころか、その・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 熱い烈しい日光を冒して外に出て見たが、眼が眩むように、草も木も、すべてだらりと葉を垂れて、眤と光っている。此の平和の村は、何処の家も昼眠をしていると見えて、誰も、外に出ている人の姿を認めなかった。『斯様、暑い日に外へ出るのはお前ば・・・ 小川未明 「感覚の回生」
・・・ シャポーシニコフは、腐った肺の血を四方に吐き散らしながら、目の眩むような神の否定を叫んだ。「ええ、俺は殆ど二十年も信心して来た。耐えて来たんだ。縛られて生きて来た。バイブルに噛りついて来た。そして、気がついて見ると――拵え事だ! ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫