・・・これから毎日学校へ出るとして一日往復いくらになるか電車のなかで暗算をする。何度やってもしくじった。その度たびに買うのと同じという答えが出たりする。有楽町で途中下車して銀座へ出、茶や砂糖、パン、牛酪などを買った。人通りが少い。ここでも三四人の・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
・・・と教えて、何だか不安で、ひそかに暗算してみたら、百メートルは約一丁であった。しかし、私は訂正しなかった。恋愛に滑稽感は禁物である。「でも、もうすぐ、そこですわ。」 バラックの、ひどいアパートであった。薄暗い廊下をとおり、五つか六つ目・・・ 太宰治 「メリイクリスマス」
・・・これはどういう訳だか分らないが、例えば盲人が暗算をやる時に無意識に指先をふるわしているといくらか似た事かもしれない。 Z町の停留場で下りようとして切符を渡すと、それをあらためた車掌が、さらにもう一つパンチを入れてそれと見較べて「これはち・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ さああまがえるどもはよろこんだのなんのって、チェッコという算術のうまいかえるなどは、もうすぐ暗算をはじめました。云いつけられるわれわれの目方は拾匁、云いつける団長のめがたは百匁、百匁割る十匁、答十。仕事は九百貫目、九百貫目掛ける十、答・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ そのうち三郎は向こうの玄関の前まで行ってしまうと、こっちへ向いてしばらく暗算をするように少し首をまげて立っていました。 みんなはやはりきろきろそっちを見ています。三郎は少し困ったように両手をうしろへ組むと向こう側の土手のほうへ職員・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
出典:青空文庫