・・・まったく個人的にまもられ、まったく個人の努力で営まれているわれわれの一つ一つの家庭、しかも戦争の間暴力的な権利でそれをちりぢりばらばらに壊されてしまっていた家庭、それを今日インフレーションの中で再建してゆく努力は、男も女も互にくらべてみれば・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・その背後にある思想というのは、五・一五事件、二・二六事件と、暴力で侵略戦争遂行の可能な軍部独裁にまで推進させてきた超国家主義、軍国主義その他、極東軍事裁判の法廷が、それをこそ共同謀議の思想として、有罪を宣告したファシズムの思想である。あるい・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ 政府の挑発的な暴力革命の宣伝に呼応して『展望』の八月号に猪木氏の「暴力論」がでました。レーニンの言葉を引用して、歴史の事実をゆがめ、労働者階級の任務を歪曲した議論がまとめられていることに、多くの人が驚きました。 知識欲のさかんな若・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・多くの人は、人間が野蛮と暴力に耐えがたいという自然な弱さで――それだからこそ人民は非人間的権力や戦争に反対してたたかうことを余儀なくされるのであるが――生の防衛の本能にみちびかれて、行動せざるを得なかった。 こんにち、いくらかひろげられ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・亀戸事件などは、人種的偏見と軍人・右翼の暴力に対する心からの憎悪をめざまさした。一九一八年ごろ日本におけるアイヌ民族の歴史的な悲劇に関心をひかれその春から秋急にアメリカへ立つまで北海道のアイヌ部落をめぐり暮した作者にとって公然と行われた朝鮮・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・ドイツのナチズムの暴力があらわれ、イタリーのファシズムが芝居がかりの権力遊びからいよいよ非人道的な爪牙を示しはじめたころだった。第一次大戦の惨苦のあとをまだまざまざと感じているヨーロッパの人々、特に青年はジャックの上に、自分たちの物語のいく・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・そして、忙しくて乏しい歳末の喧騒にまぎれて、この事件は忘れられ、今日、私たちは、その事件のおこった当日と大して変りない暴力的交通状態の下に暮しているのである。 新聞記事の出た前後、検事局の態度にあきたりない投書が、どっさりあった。この一・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・最近遽に勃興したかの感ある新感覚派なるものの感覚に関しても、時にはまた多くの場合、此の狭小なる認識者がその狭小の故を以って、芸術上に於ける一つの有力な感覚なる賓辞に向って暴力的に突撃し敵対した。これは尤もなことである。さまで理解困難な現象で・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ナポレオンの爪は彼の強烈な意志のままに暴力を振って対抗した。しかし、田虫には意志がなかった。ナポレオンの爪に猛烈な征服慾があればあるほど、田虫の戦闘力は紫色を呈して強まった。全世界を震撼させたナポレオンの一個の意志は、全力を挙げて、一枚の紙・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・真理はどこかになければならぬ筈にもかかわらず、争いだけが真理の相貌を呈しているという解きがたい謎の中で、訓練をもった暴力が、ただその訓練のために輝きを放って白熱している。「いったい、それは、眼にするすべてが幽霊だということか。――手に触・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫