・・・ブラゼンバートの暴圧には、限りがなかった。こころよい愛撫のかわりに、歯齦から血の出るほどの殴打があった。水辺のしずかな散歩のかわりに、砂塵濛々の戦車の疾駈があった。 相剋の結合は、含羞の華をひらいた。アグリパイナは、みごもった。ブラゼン・・・ 太宰治 「古典風」
・・・その時代に育ったエリカ・マンが民主主義の精神をもち、日に日につのるナチスの暴圧に反抗を感じたのは自然であった。エリカ・マンは、はじめ小論文や諷刺物語を書いて反ナチの闘争をはじめたが、一九三三年一月一日、ミュンヘンに「胡椒小屋」という政治的キ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・どれも今から十四五年前、日本で民主的な文化運動さえも権力によって暴圧されていた時代、人間らしい正当な活動はひそかに組織され、多くの犠牲をもって実行されていた頃の出来ごとがかかれている。これらの作品のなかで、その頃、あいまいな奴隷の言葉でしか・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・ この昭和十三年の禁止の時は、当時まだ幾分の抵抗力と生気とを保っていたジャーナリズム、主として新聞が日本の文化全般の問題として、この暴圧をとりあげた。しかし、禁止のリストにのせられた作家・評論家たちの間に、統一された抗争は組み立てられな・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
みなさん! 八十日間の検束の後自由を奪いかえして来た第一の挨拶を送ります。去る三月下旬以来、ファッショ化した帝国主義日本の官憲が狂気のような暴圧を日本プロレタリア文化連盟とその参加団体に加えつつあることはみなさん御承知・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・「暴圧の意義及びそれに対する逆襲を我々はいかに組織すべきか」という巻頭論文がのっている。貪るように読んだ。同志蔵原をはじめ、多くの同志たちの不撓の闘争が語られてある。その中に自分の名も加わっている。読んでいるうちに覚えず涙がこぼれそうになっ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・さらに、この年の春、日本の急進的文化団体への大規模の暴圧があり、治安維持法は政党以外の大衆的な団体も同列に罰することになった。 この錯雑した諸事情がからみあって、どんな紛糾を生じたかは誰にもよく想像されるであろうと思う。社会主義リアリズ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・あまり暴圧的な少数者の施政と政策との犠牲となってきているものだから、おじけづく癖がついてしまっている。政治ときくと、ただちに命令・統制・拘束を思って、手足をこわばらせ息をつめ、鞭を見た奴隷のように理解力を失い愚鈍に陥ってしまう。その同じ人々・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ナチス占領下のフランスで、フランス人民の自由と文化を守ろうとした人々は、反ナチス、ユダヤ人とさえ見れば虐殺したナチス暴圧下のドイツの中でなおひそかに人類の正義と人権のためにたたかっている人々との交流があった。フランス婦人の間に組織された大学・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・小林多喜二の死は、まさしく日本の自主的精神に加えられた暴圧の表現である。そのような結果さえもたらした野蛮暗黒な当時の日本で、小林多喜二が一人の正直なインテリゲンツィアとして、自分の良心の声、自分の人間的確信に従って、そのとき最善と判断された・・・ 宮本百合子 「誰のために」
出典:青空文庫