・・・ 決して、理知は暗黒な意力、或は暴威を、互の為に許しはしないのだ。が、或瞬間、情熱の爆発は、其の忘我まで自分を馳り立てる。 彼女は――自分は――その忘我が、感情に於てふんだんの女性である自分にとって、不可抗なものである事を熟知して居・・・ 宮本百合子 「結婚問題に就て考慮する迄」
・・・ スローガンだけあるが、生産を国家管理にするといっても、それはどういう国家がどう生産を管理するのであるのか、階級なき新日本と云っても、犬養を殺し、軍部が暴威を振って階級が無くなるものでもなし、ファシズムの信じ難いほどの非科学性を暴露した・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 此方の婦人と云えば、只一口に、何、アメリカのお転婆女は、男を圧迫して、暴威を振う事ほか知らないのだとけなす人もあれば、否左様ではない、アメリカの女位知的で、活動的で、芸術的で、総ての点に完全な婦人はないと讚美する人もございます。 ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・の問題で、日本の文学者が総立ちになったとすれば、それは、人類の理性の防衛であり、権力の暴威に対する人間、文学者としての抗議である。そこに文学者として文学者でない一般社会人にアッピールしうる大義名分がある。その大義名分によって、文学者たちも市・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・いたひとの息子として生れ、天津にいるアメリカ人の少年として青年時代の初期を中国に育ったジョン・ハーシーの心は、喧騒な中国の民衆生活のあらゆる場面にあふれ出ている苦力的な境遇、底しれなく自然と人間社会の暴威に生存をおびやかされながら、しかも、・・・ 宮本百合子 「「ヒロシマ」と「アダノの鐘」について」
・・・ もし、おのおのの主人公をして事そこに到らざるを得ないようにした錯綜、また〔三字伏字〕配置された紛糾混迷などを描き出して、せめては悲劇的なものにまで作品を緊張させ得たら、人は何かの形で今日の現実に暴威をふるう権力の害悪について真面目な沈・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・を読んで、信じようとする心の暴威が決して性愛のそれに劣らないことを、ほんとうに合点し得るのである。ニコライ・スタフロオギンが自ら企てずして得た奇妙な天真の力は、あたかも「無」の内に「すべて」を見る禅の悟りのように、たくまず努めず自ら意識する・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・特に恋愛の深いまじめな意味に対する感受性を鈍らせないために、性慾の暴威を打ちひしぐ必要があります。そのためには人格内の他の芽を力強く成長させなくてはならないのです。ワレンス夫人がルッソオに与えたような親切な救助も、あるいは一法かも知れません・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫