・・・席上東京朝日新聞記者村山某、小池は愚直なりしに汝は軽薄なりと叫び、予に暴行を加う。予村山某と庭の飛石の間に倒れ、左手を傷く。 これに拠って見ると、かの「懇親会」なる小説は、ほとんど事実そのままと断じても大過ないかと思われる。私は、おのれ・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・一方ではまた、突然の暴行の後に釈放された白い母鳥も、ほんのちょっとばかり取り乱した羽毛をくちばしでかいつくろって、心ばかりの身じまいをしただけで、もう何事もなかったように、これも瞬間の驚きから回復したらしい十羽のひなを引率してしずしずと池の・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・ また、ある少女が思春期以前に暴行を受けてその時の心の激動の結果が、熱烈な宗教心となって発現する。そうして最も純潔な尼僧の生活から、一朝つまらぬ悪漢に欺かれて最も悲惨な暗黒の生涯に転落する、というような実験を、忠実に行なった作品があると・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ シナの庭園も本来は自然にかたどったものではあろうが、むやみに奇岩怪石を積み並べた貝細工の化け物のようなシナふうの庭は、多くの純日本趣味の日本人の目には自然に対する変態心理者の暴行としか見えないであろう。 盆栽生け花のごときも、また・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・たかが多勢を恃んで、時のハズみでする暴行だ。命をとられる程のこともあるまいと思った彼であった。刑事や正服に護られて、会社から二丁と離れてない自分の家へ、帰ったのだった。そして負傷した身体を、二階で横たえてから、モウ五六日経った朝のことなので・・・ 徳永直 「眼」
・・・ 在昔、欧羅巴の白人が亜米利加に侵入してその土人を逐い、英人が印度地方大洋諸島に往来して暴行をたくましゅうしたるもその一例なり。今日西洋において仏国盛なり英国富むというといえども、その富のよってきたるところは何処にあるや。竜動に巍々たる・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・そしたら、もう早速暴行問題で、いやな心持です。新聞で見た応援の人字など、若々しく熱中した思いつきの面白さも感じられていたのに。そう思いました。このことにつづいて、スポーツに関し、私の心にきつく刻まれている思い出があります。それは多分プラーグ・・・ 宮本百合子 「現実の問題」
・・・として意識されるものになって来ているし、そのコンプレックスは、ドイツの若い婦人に対してヒトラーの政府が利用したようなものとしてあらせてはならないし、日本軍隊の婦女暴行としてくりかえされてもならないという意識も、明瞭に意識されて来ている。した・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・この種の事情は産別宣伝部で発行した『官憲の暴行』という各職場からのルポルタージュをよむと、誰にしても諒解せずにはいられない。 この重大な時期に民主主義文学運動の中軸としての労働者階級としての文学は、小市民をふくむ一般勤労者の文学とどうち・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ちょうど私たちの日本で、天皇制権力の犯した狂気のような国際的暴行と国内における抑圧を、ひしとその運命にうけてきながら、そこからの完全な解放をかち得ようともしない民衆と作家とがあるとすれば、そのあまりの暗愚と卑屈さがくちおしいことであるのと同・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫