・・・結局、日記帳は買い求めても、漫画をかいたり、友人の住所などを書き入れるくらいのもので、日々の出来事を記すことはできない。けれども、家の者は、何やら小さい手帖に日記をつけている様子であるから、これを借りて、それに私の註釈をつけようと決心したの・・・ 太宰治 「作家の像」
・・・それだから、いつもは、題などはつけないで書きたいことをおしまいまで書いてしまって、なんべんも読み返して手を入れた上で、いよいよ最後に題をきめて冒頭に書き入れることにしているのである。しかし今度は同じ題で数か月続けようとするのだから事情が少し・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 二度も三度も間違えながら筆の先をつかえさせて名前を書き入れると、彼は黙々として印を押した。四 その田地――禰宜様宮田が実に感謝すべき御褒美として、海老屋から押しつけられた――は、小高い丘と丘との間に狭苦しく挾みこまれて・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫