・・・こんな慌しい書き方をした文章でも、江口を正当に価値づける一助になれば、望外の仕合せだと思っている。 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・なんでもしっかりつかまえて、書いてある人を見ると、書いていることはしばらく問題外に置いて、つかまえ方、書き方のうまいのには、敬意を表せずにはいられないことが多い。傾向ばかり見て感心するより、こういう感心のしかたのほうが、より合理的だと思って・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
・・・を省略した言葉だというまわりくどい説明を含んだ書き方でごまかしているのである。が、これとても十分な書き方ではなく、一事が万事、大阪弁ほど文章に書きにくい言葉はないのだ。 大阪弁が一人前に、判り易く、しかも紋切型に陥らずに書ければ、もうそ・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・という定説が権威を持っている文壇の偏見は私を毒し、それに、翻訳の文章を読んだだけでは日本文による小説の書き方が判らぬから、当時絶讃を博していた身辺小説、心境小説、私小説の類を読んで、こういう小説、こういう文章、こういう態度が最高のものかとい・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ まず無難な書き方だ。あとでどう辛辣に変ろうとも、また、そうでなくては「あばく」ことにもならないわけだが、ここらあたりまでは、お前も辛抱できるだろう。もっとも、二つの罰金刑を素っ破抜かれた点は、いくらか痛かろうが……。 嘘も無さそう・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・日蔭者自殺を図るなどと同情のある書き方だった。柳吉は葬式があるからと逃げて行き、それきり戻って来なかった。種吉が梅田へ訊ねに行くと、そこにもいないらしかった。起きられるようになって店へ出ると、客が慰めてくれて、よく流行った。妾になれと客はさ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・「君のように、ある輪郭を描いておいて、それに当てはめて人のことを書くような書き方はおおいにけしからんよ。失敬な! 失敬な!」 彼はその晩も、こう言って、血相を変えて私に喰ってかかった。酒を飲んでいた私は、この突然な詰問に会って、おお・・・ 葛西善蔵 「遊動円木」
・・・ さようなわけであって見れば、早速今夜にも払い下げの願書を認めておきとうござりますが、まず差し当って困りますのはその願書の書き方ですが、それは。 さあその辺の次第もあろうと、かねて手配りをいたしておいて、その閣令の草案も今日ようやく・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・くどくどと、あちこち持ってまわった書き方をしたが、実はこの小説、夫婦喧嘩の小説なのである。「涙の谷」 それが導火線であった。この夫婦は既に述べたとおり、手荒なことはもちろん、口汚く罵り合った事さえないすこぶるおとなしい一組ではあるが・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・ラジオのアナウンスみたいな手紙の書き方をお許し下さい。ぼくにはこの方が純粋なような気がするのです。亦、シェストフを写します、『チエホフの作品の独創性や意義はそこにある。例えば喜劇「かもめ」を挙げよう。そこではあらゆる文学上の原理に反して、作・・・ 太宰治 「虚構の春」
出典:青空文庫