・・・また自分としても、如上の記述に関する引用書目を挙げて、いささかこの小論文の体裁を完全にしたいのであるが、生憎そうするだけの余白が残っていない。自分はただここに、「さまよえる猶太人」の伝記の起源が、馬太伝の第十六章二十八節と馬可伝の第九章一節・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・概算一万三千種の書目を作るは十人のタイピストが掛っても二日や三日では出来るものではない。恐らく此記者先生は丸善を雑誌屋とでも思ったのであろう。此質問一ヵ条を持出して、『目録は出来ていません』と答えると直ぐ『さよなら』と帰って了った。 見・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・思出すままに、わたくしたちが三、四十年前中学校でよんだ英文の書目を挙げて見るのもまた一興であろう。その頃、英語は高等小学校の三、四年頃から課目に加えられていた。教科書は米国の『ナショナル・リーダー』であった。中学校に進んで、一、二年の間はそ・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・されば古老の随筆にして行賈の風俗を記載せざるものは稀であるが、その中に就いて、曳尾庵がわが衣の如き、小川顕道が塵塚談の如きは、今猶好事家必読の書目中に数えられている。是亦わたくしの贅するに及ばぬことであろう。昭和二年十一月記・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・ あるときどんな英語の本を読んだら宜かろうという余の問に応じて、先生は早速手近にある紙片に、十種ほどの書目を認めて余に与えられた。余は時を移さずその内の或物を読んだ。即座に手に入らなかったものは、機会を求めて得る度にこれを読んだ。どうし・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・それは、東京書籍舘書目と云う一冊、飜刻智環啓蒙と云う何のことだか題では私などに見当もつかないもの、及、明治十五年前半期の福島警察枢要書類等である。 東京書籍館は、今の上野帝国図書館の前身である。いつ何処だのかは覚えないが、この書籍館時代・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
出典:青空文庫