・・・という文章を求められて、この話を書き送ることにした。この十八歳の娘さんのいじらしいばかりに健気な気持については、註釈めいたものは要らぬだろう。ひとはしばらく眼をつぶって、この娘さんの可憐な顔を想像してくれるがよい。・・・ 織田作之助 「十八歳の花嫁」
・・・そは故郷なる旧友の許へと書き送るなり。そのもの案じがおなる蒼き色、この夜は頬のあたりすこし赤らみておりおりいずこともなくみつむるまなざし、霧に包まれしある物を定かに視んと願うがごとし。 霧のうちには一人の翁立ちたり。 教師は筆おきて・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・むかしの佳き人たちの恋物語、あるいは、とくべつに楽しかった御旅行の追憶、さては、先生御自身のきよらかなるロマンス、等々、病床の高橋君に書き送る形式にて、四枚、月末までにおねがい申しあげます。大阪サロン編輯部、春田一男。太宰治様。」「君の・・・ 太宰治 「虚構の春」
出典:青空文庫