・・・もとより智能を発育するには、少しは文字の心得もなからざるべからずといえども、今の実際は、ただ文字の一方に偏し、いやしくもよく書を読み字を書く者あれば、これを最上として、試験の点数はもちろん、世の毀誉もまた、これにしたがい、よく難字を解しよく・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・他政府に対しては恰も痛痒相感ぜざるがごとくなるのみならず、陰陽表裏共に自家の利益栄誉を主張してほとんど至らざるところなく、そのこれを主張することいよいよ盛なる者に附するに忠君愛国等の名を以てして、国民最上の美徳と称するこそ不思議なれ。故に忠・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・これは天国の天ぷらというもんですぜ。最上等のところです」と言いながら盗んで来た角パンを出しました。 ホモイはちょっとたべてみたら、実にどうもうまいのです。そこで狐に、 「こんなものどの木にできるのだい」とたずねますと狐が横を向いて一・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・決して卑しく求むべきではないし、最上とか何とか先入的な価値の概念は持つべきでないし、同時に、恋愛の本質に素直でそこから自分の誠実さが感じ理解出来るだけのものを余りなく得て全生活を浄め豊かにするだけの、視野の宏大な愛、人間、自分への信任が大切・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・「私は最上のものを、かりそめのものとしか見なかった」と、自分のロマンティックなものを評価している観念であり、一方、日々生きてゆく上からは「世間というものが君の理想の実現を助けてやろうとして存在しているものじゃない」ことをも知り、「その理・・・ 宮本百合子 「観念性と抒情性」
・・・貴方はそこで可能な最上の生活を営んでいらっしゃる。今は私もそのディテールを知って居るわけです。私はこっちで段々健康をとり戻し、好い小説を書きはじめる。 五月二十五日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 本郷区駒込林町二一中條咲枝より[自注1]〕・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・けれどもそこには、甲斐甲斐しさもあるし、運命をさけてまわらないでそのなかから最上のものをとり、最上と思われる生きかたの道をつけて、生き越して行こうとする若い人々の努力が汲みとられる。 最も一般的に感じられたのは、訣れを前に見て、その最悪・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・そしてその女はそれを人間としての最上の生活であると信じ、そのために働き且つ勉強する。私は然し、それが終極のものであるかということに就いては疑いを懐きます。抑々其女のこうした欲求は、本当の人間として生きて行きたいというそれから出たものであろう・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・年中有意義無意義に繁忙で、本を読む時間も沈思する時間も持たない日常のひとたちは、全くたまの休みには家へかえって本でも読むのが最上のことである。 学生という夥しい青年たちの質は実にピンからキリまでであるから、なかには勿論下らない者もいるだ・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
・・・ 自分は山近い農村で育ったので、秋には茸狩りが最上の楽しみであった。何歳のころからそれを始めたかは全然記憶がないが、小学校へはいるよりも以前であることだけは確かである。村から二、三町で松や雑木の林が始まり、それが子供にとって非常に広いと・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
出典:青空文庫