・・・その友だちの植えた檜の木ももう蔭をなしていたが、最近行った時には、周囲の垣がこわれて、他の墓との境界がなくなっていた。――『東京の三十年』より―― 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・また最近にタイムス週刊の画報に出た、彼がキングス・カレッジで講演をしている横顔もちょっと変っている。顔面に対してかなり大きな角度をして突き出た三角形の大きな鼻が眼に付く。 アインシュタインは「芸術から受けるような精神的幸福は他の方面から・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・お絹たちは京阪地方へも、たいてい遊びに行っていて、名所や宿屋や劇場のことなぞも知っていた。最近では去年大阪にいる子息のところへしばらく行っていたので、その嫁の姻戚でまた主人筋になっている人につれられて、方々連れて歩かれた。「それじゃ辰之・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ 従って緒論に現われた先生は、出来得る限りの範囲において、われらが最近五十年間の豹変に対する説明を、箇条がきの如くに与えておられる。その内にはちょっとわれらの思い設けぬ解釈さえある。西洋人が予期せざる日本の文明に驚ろくのは、彼らが開化と・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・現にこの種の部落の一つは、つい最近まで、この温泉場の附近にあった。今ではさすがに解消して、住民は何所かへ散ってしまったけれども、おそらくやはり、何所かで秘密の集団生活を続けているにちがいない。その疑いない証拠として、現に彼らのオクラを見たと・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ 消防組、青年団は、何のために護衛し、非常線を張り且つか? 家族の者とても、取調べを受けない訳には行かなかった。片っ端から母を異にする兄弟姉妹の間に、何かありはしないか? 最近の犯罪傾向が暗示する、骨肉相殺がないか? 人々は信ずる処・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・文学の方で最近の傾向はシンボリズムとか、ミスチシズムとか云うのだが、イズムの中に彷徨いてる間や未だ駄目だね。象徴主義で云う霊肉一致も思想だけで、真実一致はして居らんじゃないか。で、私は露語の所謂ストリャッフヌストと云ったような時代……つまり・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・却って、最近悪化して来ている。いくら、待遇改善しても、月給は物価に追いつく時は決してない。これがインフレーションの特徴である。めいめいの財布は空となって、遂にほうり出されている形である。闇の循環で、細々生きているような生命の扱いかたをどんな・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ある一つの有力な賓辞に対する狭小な認識はそれが批評となって現わされたとき、勿論芸術作品の成長範囲をも狭小ならしめることは、一例を取るまでもなく明かなことである。最近遽に勃興したかの感ある新感覚派なるものの感覚に関しても、時にはまた多くの場合・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・自分の学生時代に最も深い感銘を受けたものは、この講義と大塚先生の「最近文芸史」とである。大塚先生の講義はその熱烈な好学心をひしひしと我々の胸に感じさせ、我々の学問への熱情を知らず知らずに煽り立てるようなものであったが、それに対して岡倉先生の・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
出典:青空文庫