・・・ こゝに初めて読書するということが有効になって来る。それは経験に直接即するよりも、遙かに秩序的であり組織的であるからである。更に詳しく述べれば、われ/\は読書の間に、自分の無し得ない多くの而して未知の経験と、発見し得ない真理と、さまざま・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・がもうその時は、小切手の有効期間が切れている。振出人に送り戻して、新しい小切手を切ってもらうのがまた面倒くさい。「そんなわけで、大した金額ではないが、無効になった為替や小切手が大分あるのだ」 という十吉の話を聴いて、私は呆れてしまっ・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・私はこれまで、いろんな闇屋から闇屋へ渡り歩いて来ましたが、どうも女の闇屋のほうが、男の闇屋よりも私を二倍にも有効に使うようでございました。女の慾というものは、男の慾よりもさらに徹底してあさましく、凄じいところがあるようでございます。私をその・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・私は、その夜の五円を、極めて有効に、一点濁らず、使用いたしました。生涯の記念として、いまなお、その折のメモを失くさず、『青い鞭』のペエジの間にはさんで蔵して在るのです。三銭切手十枚、三十銭。南京豆、十銭。チェリイ、十銭。みのり、十五銭。椿の・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・私は、大作家になる望みを失い、一日いっぱい溜息ばかり吐いていたし、このままでいてはついには気が狂って了うかも知れぬと思い、せっかくの冬休みをどうにか有効に送りたい心もあって、その温泉行を決意したのであった。私はそのころ、年若く見られるのを恥・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
・・・それよりは自分で物を考えるような修練に重きを置いた一般的教育が有効である。」「尤も生徒の個性的傾向は無論考えなければならない。通例そのような傾向は、かなりに早くから現われるものである。それだから自分の案では、中等学校の三年頃からそれぞれ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 映画の編集過程 たくさんな陰画の堆積の中から有効なものを選び出してそれをいかにつなぎ合わせるかがいわゆるモンタージュの仕事である。 モンタージュという言葉を抽出し、その意義を自覚的に強調したのはプドーフキン一派・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ この映画に取り入れられた僅少な音楽もかなりに有効に使われている。ヒロインが病院の病室を一つ一つ見回って愛人を捜す場面で、階下から聞こえて来る土人女の廃頽的な民謡も、この場の陰惨でしかもどこかつやけのある雰囲気を濃厚にする。それから次の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・能楽を舞台背景と番組書だけで見せたり、切腹の場を辞世の歌をかいた色紙に落ちる一片の桜の花弁で代表させたりするのは多少月並みではあるがともかくも日本人らしい象徴的な取り扱い方で、あくどい芝居を救うために有効であると思われた。しかしいちばん困る・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・それがこの劇の心理的内容を複雑にするに有効であるように見える。 「ひとで」 この映画と同時に有名なマン・レイの「海翻車」を見た。全体としては、正直にいって決して「おもしろい」ものではない。しかし、なにかしら、ほんとう・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫