・・・勿論、これらの作と雖も或る特殊階級の人々には必要なものかも知れぬが、然し此等の作品が民衆的であるべき目的を度外視して、或る特殊な有産階級とか知識階級の為めにのみ作られるということは、頗る不合理だと思うのである。 トルストイの芸術はどんな・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・彼女は、彼女の父親の代から属していた有産階級と絶縁し、家庭教師その他知的職業によって生活する一人の無産者となった。 アンネットは美しい。若い。然し恋愛を或る点恐怖している。アンネットは一旦自分を譲ったら徹底的に譲歩する自分の性質、並に必・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・なぜなら大部分の人が有産階級の人ですから。昨今婦人代議士のいうことは戦時中村岡花子や山高しげりその他の婦人達が婦人雑誌や地方講演に出歩いて、どうしてもこの戦いを勝たすために、挙国一致して「耐乏生活」をやりとげてくださいと説いてまわったと同じ・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・日露戦争からヨーロッパ大戦までの間に、近代社会としての日本の社会機構が急速な膨脹をとげたように、その発展の雰囲気は、文学にも及ぼして、有産知識人の文学的活動は華々しく行われたのであった。その当時、果して文学賞などというものが存在したであろう・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・それまでの婦人作家が概して有産的な環境の中から生れ出ているに対して、この時代の潮は勤労的な生活の中から婦人作家を誘い出して、窪川稲子の「キャラメル工場から」等はその代表的なものだと思う。 そのような文学の動きは、新しい社会的な素地から作・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・だが今日、毎日ちゃんと通学している学生が、殆ど有産階級の子弟だということは、民主日本の建設にとって、どういう重大なマイナスであろう。学生も食うために闇屋さえやっている。憲法で云われているだけでは駄目である。実際の可能を作って行かなければ、教・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・その結果荷風は、ヨーロッパふうな社会的なものの考えかたは放擲して、自身の有産的境地のゆるす範囲にとうかいして、好色的文学に入ってしまった作家です。社会に発現するあらゆる事象を、骨の髄までみて、そこに出てくる膿までもたじろがずに見きわめる意味・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・間として偉くなれるという簡単な結論はなり立たぬにしろ、本間氏夫妻はその会話の裏に計らずこめられた現実によって、例えば職業についても遊び半分の気のすくない勤労階級の娘が、フラフラして片手仕事に勤めている有産階級の娘より偉くなる可能性をもってい・・・ 宮本百合子 「短い感想」
出典:青空文庫